お笑いコンビ「ぺこぱ」 誰も傷つけない笑いで開花
2019年末の漫才日本一決定戦『M-1グランプリ』で、初の決勝進出にして3位に輝いたぺこぱ。M-1では、シュウペイの無邪気なボケを、松陰寺太勇がツッコまずに受け入れる独特なスタイルの漫才を披露。審査員の松本人志が「ノリツッコまないボケ。新しいところを突いてきた」と高く評価した。頭ごなしに否定しないネタは、今の時代感にフィットし、"誰も傷つけない笑い"として高い支持を得ている。
現在の状況を松陰寺は「今までじゃ考えられない仕事をさせてもらえるようになった」と語る。結成は08年。音響の専門学校を卒業後、居酒屋でアルバイトしていた松陰寺が、同じバイト先に入ってきたシュウペイを誘ってコンビを組んだ。「バンドをやりたくて東京に出てきたんですが、周りがうますぎて挫折して。それでも表舞台で何かやりたいと思い、お笑いに目を向けました」と松陰寺。
互いの第一印象は「シュウペイは雑誌でしか見たことがないギャル男。髪の毛先を遊ばせていて、サイヤ人みたいでした」(松陰寺)、「見た目は地味な大学生。ズボンのチャックが開いていて、そこからマフラーが出ていたんですよ(笑)。『何だこの人』って印象が強かったんで、お笑いをやろうって誘われても正直、心が動かなかったです」(シュウペイ)
「お笑いのことを全く知らなかったから、オリエンタルラジオさんのように1年目から売れると思っていた」というシュウペイの思惑は当然外れ、今のスタイルができあがるまでには様々な変遷があったという。ボケとツッコミの役割を何度も入れ替え「ボーイズラブ漫才」や「ラッパー漫才」をやっていた時期も。13年頃にようやく現在の松陰寺の原型となるキャラクターが生まれた。
「ドラマで見た『花より男子』の道明寺司がカッコよかったから、名前も似た響きのものにしようと思って、今の芸名を考えて。相方に電話で伝えたんですけど、4回くらい聞き取ってもらえませんでした」と振り返る。「2年に1回のペースで『やばい、売れるネタできた』って言うんですよ。そのたびに『また芸風が変わるんだな』って思ってました」(シュウペイ)。
19年元日には『ぐるナイおもしろ荘へいらっしゃい!』で優勝。そのままスターダムにのし上がるかと思いきや、露出は増えなかった。その後、所属事務所のお笑い部門閉鎖に伴い、昨年サンミュージックプロダクションに移籍することに。
華やかな芸能生活を歩み始めた2人だが、目指す芸人像は「まだ全然考えられない」と松陰寺。「とはいえ、売れなかった12年があるんで、前が見えない道を歩くのは得意です」と続けると、シュウペイも「何も分からない分、1個1個の仕事を丁寧にやっていくだけ」と笑顔を見せた。
新しいスタイルの漫才を武器にどこまで駆け上がるか。まだ未知数の2人ゆえに、今後も要注目だ。
(日経エンタテインメント!5月号の記事を再構成 文/遠藤敏文 写真/中村嘉昭)
[日経MJ2020年5月29日付]
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