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末続慎吾さん 休養宣言後に「週1回バーで人間観察」

元五輪陸上メダリストに聞く(中)

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

2003年の世界陸上パリ大会男子200mで銅メダルを獲得し、2008年北京五輪では4×100mリレーで銅メダルを獲得(優勝したジャマイカチームが失格となり、2018年に銀メダルに繰り上げになった)。200mの日本記録保持者であり、今も現役として走り続ける末続慎吾選手だが、北京五輪が終わった後、手の震えが止まらなかったり、走ることにモチベーションが上がらなかったりして、無期限の休養に入る。一度陸上競技から離れた彼が、どのようにして9年かけて日本選手権の舞台に戻ってきたのかを聞いた(前回記事は「末続慎吾さん 39歳の今もプロ陸上選手として走る理由」)。

週1回、ウーロン茶片手にバーで人間観察

――休養宣言をされた後、地元熊本に戻り、どのような生活をされていたのでしょうか。

たくさんの人に会いました。僕が今まで生きてきた陸上人生の枠では出会わなかった人たちに。例えば、バーを50年経営されているオーナーに出会い、「君はね、走ることばっかりやっていたから、もうちょっと人間を見た方がいい」と言われました。そこで週1回、お店の席に座って、訪れるお客さんを眺めながら人間観察をしていたんです。ウーロン茶を片手に(笑)。するとどんな職業の人が酒癖が悪いのかが分かるなど、世の中の縮図を見ることができました。

そんなことを続けているうちに、みんなさまざまな悩みを抱えていて、それでも楽しく生きている人もいると分かってきた。そして、自分ももっと楽しんで生きていいんだと思えました。義務のように店に足を運んでいましたが、人の人生に触れることは僕自身も楽しかったし、視野が広がった。あのとき本当に通ってよかったと思います。

――さまざまな人生を垣間見て、多角的な視点を得られることができたと。

それまでの僕の人生は、目標が明確だったんです。五輪や世界選手権で金メダルや銀メダルを取る。そこから逆算して予定を立て、日々やることを決めていく。目標に向かうという分かりやすくて楽しい面がある一方で、分かりやすい生き方は逃げ口がないから怖い面もある。僕はそれを肌で感じていました。

競技から一度離れたことで、明確な目標がなくても迷いながら模索していく方が肩の力を抜いて生きられるのだと分かりました。何が生まれるか分からないからクリエイティブで楽しい生き方ができるかもしれないと。

復帰した試合で中学生が速そうに見えた

――どれくらいの期間を経て、また何をきっかけに競技に復帰されたのでしょうか?

約1000日ですね。3年近くかかりました。ある日、テレビをつけると、陸上の日本選手権が放送されていて、レースを見ながら「俺だったらこうするな」とぽろっとつぶやいた自分に気づいたんです。「ああ、俺、走りたいんだ」と思いました。その日をきっかけに競技に戻り、スパイクに足を入れました。2011年6月12日のことでした。

――その3年間はトレーニングをされていた?

競技の世界には戻りたくない自分と、「いつか復活してやる」といった負けず嫌いの自分がいて、練習場所には行けなかったけど、気分転換に近所をジョギングしたり、ウエイトトレーニングをしたりして自主練習はしていました。

――復帰戦はどんな気持ちでしたか?

その年の10月、地元である熊本の市の記録会に出場したのですが、見たことのない新作のスパイクを履いている中学生を見て、彼らが速そうに見えましたね(笑)。「しばらく走らないと素人みたいになるんだな」と思いました。「いつから俺は偉くなったと思っていたんだろう。所詮、俺はそれぐらいの人間なんだ」と。

復帰戦のタイムは10秒87でした。長年構築してきた技術がなくなったようで、どうやって走れば10秒03のタイムが出たのか分からなくなっていました。練習で一つひとつ動きを試しながら、手探りで自分の走りを取り戻すような日々を過ごしました。

結局2012年のロンドン五輪には出場できず、所属していた会社の要望に応えられない自分にも納得ができなかったので、2015年にお世話になったミズノを退社しました。その後、通信制の星槎大学などを運営する星槎グループのサポートを受け、プロアスリートとして活動を始めました。

トム・テレツコーチに指導を受けた2週間

――2017年、37歳で9年ぶりに日本選手権に復活されたことが話題になりました。

実はその年の春、カール・ルイス[注1]の指導者だったトム・テレツコーチに指導してもらう機会があったんです。

[注1]米国の元短距離と走り幅跳びの選手。5大会連続で五輪に出場し、男子100m、200m、走り幅跳び、4×100mリレーで9つの金メダルを獲得した。

2016年2月、オーストラリアのメルボルンで合宿したとき、テレツコーチの指導を受けていた選手に会いました。すると「2004年ぐらいからテレツはずっと君と仕事をしたいと言って、アプローチしていたんだよ。僕もその必要性を感じる」と教えてくれて、「練習を見てもらえばいい」と誘ってくれました。驚いた僕は「まだ走りが整っていないので、もうちょっと待ってくれ」と話し、2017年4月、満を持して米テキサス州のヒューストンへ飛びました。

テレツコーチは当時84歳でしたがバリバリの現役コーチで、陸上のこと以外は興味がない陸上職人でした。いわゆる陸上技術の完成形を持っていて、僕の走りを見ながら「これとこれとこれができれば大丈夫だから」と言って、できているかできていないかを判断しながらマンツーマンで指導してくれました。約2週間という短期間でしたが、彼の指導をすべて吸収したかった僕は、寝る前に指導を受けた画像を見ながら復習し、走ることしか考えない幸せな日々を過ごしました。

テレツコーチに教わって分かったのは、走ることの情報が多すぎてムダが多かったということ。それ以上に、「君は速い。もっと速くなる」という言葉をもらったことに僕は救われるような気持ちになりました。指導を受けてよかったと。

――テレツさんの指導は、その後どう生きましたか。

やらなくてもいい練習が分かってきて、体のダメージが少なくなりました。その分の時間をやった方がいい練習や、そのほかの仕事に回せました。

その年の5月にテキサスの競技会で200mに出場して20秒94をマークし、日本選手権の参加標準記録を突破しました。そして9年ぶりに、6月に大阪の長居で行われた日本選手権に出場。スタートラインに立つ前は緊張して吐きそうでした。「緊張しないようにするにはどうすればいい?」とよく質問をされますが、僕が聞きたいぐらい(笑)。メダリストでも日本記録保持者でも普通の人間。試合に臨むときは、昔からいつも「怖い」と思いましたが、人の性格や性質は変わりません。でもここで緊張できたのは、現役選手として臨めた証でもあったように思います。

サニブラウン・ハキーム選手と同じ組で走り、結果は21秒50の予選落ちでした。でも、観客の皆さんの拍手がとても温かくて、素直に「ありがとう」という気持ちが湧き出てきて、とても幸せな時間でした。競技者として大事なのは記録や順位だけではなく、人に感動や興奮を与えることなんだと思い、走り続けるモチベーションにつながりました。

◇  ◇  ◇

39歳の今も現役で走り続けられる末続選手の独自のトレーニング法や生活習慣について、次回記事で紹介する。

(ライター 高島三幸、写真 厚地健太郎)

[日経Gooday2020年5月15日付記事を再構成]

末続慎吾さん
元五輪陸上メダリスト、陸上短距離プロアスリート。1980年熊本県生まれ。2003年世界陸上パリ大会200mで3位(日本短距離界史上初のメダル)。2008年北京五輪4x100mリレーで銅メダリストに(その後、優勝したジャマイカのドーピングによる失格により、銀メダル獲得に)。2015年プロ陸上選手として独立。現役アスリートとして走りながら、自身が主宰するEAGLERUNのメンバーとして、陸上競技の指導やスポーツイベントの参加など活動は多岐にわたる。

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