衣装にお国柄が表れた英・米・仏・伊の名作映画から、我々の“永遠”の範となるスーツ&ジャケットのスタイリングをご紹介。併せて、人気の敏腕スタイリストがそれをより今の日本人向けにアレンジした“最旬”の着こなしを指南する。装いの幅を広げたい紳士は必読!
Study1. 『キングスマン』から学ぶ イギリスの“品格”
「ブローグではなくオックスフォード」。そんな合言葉を持つ謎の国際諜報機関という設定からして、ドレス好きの心は鷲掴みされたはずだ。サヴィル・ロウの老舗テーラーを隠れ蓑とするだけに、敏腕エージェント役のコリン・ファースは常にクラシックなスーツを寸分の隙なく纏う。「スーツは紳士の鎧」という台詞そのままに、超ド派手な戦闘シーンも全てスーツだ。
ここでフォーカスしたダブルスーツは、主人公の青年をスカウトに赴く場面で着用したもの。構築的な肩と量感溢れる胸、絞ったウエストがもたらす美しいドレープなど、まさにブリティッシュスーツの真髄的一着であり、ある意味007よりずっと英国の伝統的紳士像を具現化している。控えめながらも成熟した男の品と格が濃厚に立ち上る、全ての正統派がお手本とすべきスタイルがここにある。
《“映画”から学ぶ永遠》
『キングスマン』
表向きは高級テーラーだが、じつはどこの国にも属さず難事件やテロを解決する完全独立性の国際諜報機関「キングスマン」。亡き父の後を継ぎその一員となる道を進んだ青年エグジー(タロン・エガートン)の成長を英国らしいユーモアを交えて描いた痛快アクションムービーだ。ベテランスパイ役のコリン・ファースをはじめ役者たちのスタイリッシュなスーツ姿は一見の価値あり。2015年公開。
《“スタイリスト”から学ぶ最旬》
劇中で纏っていたのはグレーストライプのダブルだが、大人の余裕や色気を演出したいのならチェック柄もおすすめと四方氏。そこで選んだのは赤のペーンが印象的なヘンリープールの一着。「グレーやネイビーといったベーシックな色味にこういう綺麗な色をさりげなく配するのも英国ならでは。構築的な仕立ての堅さが中和され、華奢な日本人への馴染みもいいと思います。華美に感じるかもしれませんが、流行りの黒ベースのタイで引き締めれば品格も保て、むしろ今らしいエレガンスも薫ってきます」(四方さん)。
■Best Arranged [ STYLING ] from KINGSMAN
Styling Point(1) レッドウインドウペーン
グレーベースのグレンチェックに赤のペーンを載せた生地。構築的な仕立てのダブルスーツを柔らかに見せ、大人の男の色気も演出。
Styling Point(2) ブラックタイ
こういう柄の入ったスーツをシックに整えたいときには、黒ベースのタイが使える。引き算的な胸元表現はクラシックをモダンに見せる効能も。
Styling Point(3) レイジーマンシューズ
足元はあえてサイドエラスティックのレイジーマンシューズを選択。クラシックな英国スタイルに調和しながら、今らしい軽快感も醸し出せる。
四方 章敬さん/スタイリスト
1982年生まれ。武内雅英氏に師事した後、独立。本誌をはじめ多くのメンズファッション誌で活躍する実力者だ。控えめでエレガントなスタイリングが信条。
Study2. 『アメリカン・サイコ』から学ぶ アメリカの“風格”
アメリカのエリート金融マンの装いをリアルに描いた映画は数多くあるが、『アメリカン・サイコ』ほどそれをスタイリッシュに映像化したものはないだろう。端正なマスクと鍛え上げた肉体を持つ主人公に、’80年代らしいゆったりしたスーツがじつによく馴染んでいる。名刺のデザインで同僚とマウントを取り合うシーン、そして主人公の猟奇性が表れたシーンにおいても、服好きはその着こなしのほうに目が行ってしまうかもしれない。
着用スーツの生地はバンカーの象徴とも言える主張の強いネイビーストライプが多く、合わせるのもこれまた色柄の効いたシャツ&タイ。いわゆるパワーVゾーンだが、確かに仕事のできる男に見え、大切な商談のある日に参考にしたくなる。衝撃的なストーリーはともかく、風格あるスーツの着こなしを学ぶには格好のテキストだ。
《“映画”から学ぶ永遠》
『アメリカン・サイコ』
舞台は80年代後半のニューヨーク・マンハッタン。クリスチャン・ベール扮する主人公は27歳でウォール街の投資会社の副社長を務める典型的なヤッピー。ファッションや美容に余念がなく、夜は毎日のように仲間たちと高級レストランに繰り出して人生を謳歌するが、実は彼には裏の顔が……。金融バブルに浮かれた者たちへの強力な皮肉も詰まったサイコスリラーの名作だ。2000年公開。
《“スタイリスト”から学ぶ最旬》
『アメリカン・サイコ』の米国の金融マンらしい主張の効いたネイビーストライプの着こなしを日本の旬に合うようアレンジするのなら、色数を抑えるのが一番と四方さん。「タイもシャツも青ベースを選んで全身ワントーンを意識するとアクの強さが中和されます。写真のようにタイを大柄のパネルストライプとすれば主張感も申し分ないでしょう。ちなみにパネルタイは米国で流行ったものですから、さりげなく米国テイストも醸し出せます。シャツはBDシャツも合いますが、タブカラーだと今季っぽさが高まり、より伊達なバンカーズスタイルを構築できます」(四方さん)。
■Best Arranged [ STYLING ] from AMERICAN PSYCHO
Styling Point(1) 紺ワントーン
色柄の効いたリッチな胸元もいいが、バブル時代のような古臭い印象にも。シャツタイは青ベースのものを選び、ポイント的に色を使うようにしたい。
Styling Point(2) パネルタイ
紺ストライプのスーツにレジメンタイや小紋タイはありがち。その点大柄のパネルストライプなら胸元を新鮮に演出でき、主張も強まる。
Styling Point(3) タブカラーシャツ
シャツは、コンパクトにまとめたノットをキュッと立体的に持ち上げるタブカラーを選択。紺ストスーツの格調を高めるポイントにもなる。