今田酒造の純米酒「サタケシリーズ I HENPEI 火入れ」(左)と「サタケシリーズ I GENKEI 火入れ」(右)。同蔵は1月には同シリーズの生酒もリリースしたが、人気でほどなく完売した

同蔵は、今年さらにユニークな商品を展開。飲み比べを意識して、扁平精米に加え、原形精米の酒を売り出したのだ。コメを平べったく磨く扁平精米に対して、原形精米は、材料となるコメのミニチュア版をつくるような形で精米する方法である。

それぞれ「HENPEI」「GENKEI」と名付けた酒には、広島で最も古い在来品種のコメ、八反草(はったんそう)を使用。精米歩合はいずれも60パーセントでコメの形以外は同じスペックで醸造した。「できるまで、どうなるか全くイメージがわかなかった」と今田さんは言うが、これが話題を呼ぶ商品に。扁平精米と原形精米ではタンパク値はほとんど変わらないにもかかわらず、味わいが大きく異なる酒となったからだ。

東京・台東の酒販店「合羽橋 酒のサンワ」で、扁平精米、原形精米の酒(火入れしたもの)を飲んだ。同店では、500円(税込み)でテイスティングメニューにある酒を2種類試飲できるのだ(大吟醸は同価格で1種類)。「この仕事をして10年ほどになりますが、精米だけでこんなに違うとは驚きました。扁平はドライで、原形はなめらかな味わい。お客様からも一様に大きなリアクションがありました」と同店の尾花寿美子さんは話す。

直接取引する酒蔵を中心に扱う酒販店「酒のサンワ」のかっぱ橋道具街沿いの店。店内のカウンターでは、一部の酒のテイスティングもできる

同店で試飲する客は日本酒ビギナーが多いというが、今田酒造の「HENPEI」「GENKEI」は、酒に詳しい客も「飲んでみたい」と興味を持ったという。「試飲後は、特にこれまでのお酒とは突出して異なる扁平精米のお酒を買われる方が多く、リピートされる方もいらっしゃいました」と尾花さん。「ドライなのですが、抜栓してからしばらく置いておくと、隠れていた複雑な味わいが出、余韻が長くなる」とその魅力を話す。

「日本酒はワインと比べられることがよくありますが、同じ醸造酒でも2つは全く異なります。ブドウとは異なり、コメはさまざまに手をかけないと発酵しません。醸造工程も複雑で、理解してもらうのが難しい。しかし、原料となるコメの形で味わいが変わるということは、ワインの世界の人は想像もしないことでしょう。コメの酒のすごさを分かりやすい形で伝えられると思うんです」と今田さんは言う。実際、4月下旬にオーストラリアの顧客30人ほどとビデオ会議サービスを使って勉強会を行った際には、質問が相次ぎ4時間ほどの長丁場になったそうだ。

今田さんも、佐藤さんと同じく今回が扁平精米のコメを用いた酒造りの「答え」ではないと考える。「もっと回数を重ね、経験を積み重ねていきたい」と、今後は精米歩合も変えるなどしてさまざまな造り方を試してみたいと意欲を燃やす。

「今日は扁平精米の酒にしようか」――居酒屋で客がそんな一言をつぶやく日も遠くないに違いない。

(フリーライター 大塚千春)

メールマガジン登録
大人のレストランガイド