さまざまな酒造りに意欲的に取り組む新政酒造。12~13年度からは、今では珍しくなった木おけ仕込みを開始した。写真提供:新政酒造

「実は品質にこだわるあまり、原材料であるコメのコストが非常に高くなってきてしまっていたんです。そのため、一度低価格帯の酒のコメの精米歩合を60パーセントから65パーセントに上げてみた。自分たちの技術ならばそれでもいい酒ができると思ったのですが、蓋を開けてみるとやはり60パーセントの方がよいという結果に。それで、扁平精米ならば、65パーセントでも目指すお酒ができるのではないかと考えたのです」と佐藤さんは扁平精米機導入の経緯を明かす。

新しい酒は2月から順次リリースとなったが、酒造りは試行錯誤の連続だった。「扁平精米の酒は、思ったよりすっきりとして、当初はボディー感が失われてしまった。うちの蔵は、アルコール度数が低い酒造りにこだわっているので、バランスが崩れてしまったんです」(佐藤さん)。そこで、最初はこうじにも用いていた扁平精米を、球形精米したコメに変更。そうして、半年ほどさまざまな研究を重ねるうち、ようやく味わいがまとまってきたという。「だから、最近リリースされたものは、最初の頃に比べ各段にいいお酒になっています」

今年リリースの酒から、新政の定番生酒である「No.6」のシリーズ(左2本)や火入れシリーズ「Colors」(右2本)など8種の酒に、扁平精米のコメが使われるようになった。写真提供:新政酒造

扁平精米のコメを使用することで特に大きく味わいが向上したのが、火入れした日本酒のシリーズ「Colors(カラーズ)」の「生成 2019 -Ecru-」や生酒のシリーズ「No.6(ナンバーシックス)」の「R-type(アールタイプ) 2019」。客の評価も高いという。「扁平精米のコメを使った酒は、すっきりしているけれどのびやか。うまみがあるものの、余韻は長く残らずさっと引くようなイメージある。後味がきれいなので、薄味のだしを使った和食、例えば京風おでんなどとよく合うと思います」と佐藤さんは薦める。

大変な苦労をしながら、新政では今シーズン最後の酒は、こうじも含めまたすべて扁平精米のコメを使用することにした。理由は「その方が、より個性的な酒ができるから」だ。「うちはふくよかさ、まろやかさではなく、シャープな味を求めている蔵。だから、扁平精米と相性がいい。これからは、精米歩合が45、50パーセントとより低いものや、同70パーセントなど低精白の酒にも挑戦したい」と佐藤さんはあくなきチャレンジ精神をのぞかせる。

実は、新政より先に扁平精米による酒造りに取り組んだ蔵がある。富久長(ふくちょう)ブランドで知られる東広島市の今田酒造本店だ。精米機は高価で人手もかかるため、新政のように自社で精米をする蔵は限られている。しかし、蔵元で杜氏(とうじ)の今田美穂さんは「磨かなくてもいい酒ができる」という同郷のサタケの新精米機の話を聞いて驚き、19年から委託精米による扁平精米の酒のリリースを始めた。最初の酒は酒造好適米の最高峰と言われる山田錦を用い、精米歩合60パーセントながら大吟醸のようなきれいな味わいの酒になったという。

メールマガジン登録
大人のレストランガイド