「スマホを使用している現場に最初は驚いたが、診断に必要な発光やカメラの機能はある。しかし、スマホの放つ光は眼科の診断に適切な光ではないし、画像もブレやすく、拡大すると細部がぼやける。これでは正確な診断は無理だ」。そう語り合いながら、起業のヒントが浮かび上がった。適切な発光と画像処理ができる専用デバイスを開発し、スマホに装着できるようにすれば、どんな場所でも簡単に眼の診断ができる。

ニーズがあるのはベトナムだけではない。英医学誌「The Lancet Global Health(ザ・ランセット・グローバル・ヘルス)」の報告によれば、15年の失明人口は世界で約3600万人とされ、およそ半数は白内障によるものとなっている。日本では短時間の手術で治るケースが大半だが、医療機器や医師が不足している途上国などでは極めて深刻な眼の病だ。

スマホによる簡易な眼科診断が普及すれば、位置情報などと結びついたビッグデータとなり「どの地域でどのような目の病気が多くなっているのかといった疫学的なデータが得られる」。人工知能(AI)を活用すれば診断支援もスムーズになり、医師不足を補える。

世界の失明患者を半分に

そんな発想が結実したのが小型デバイス「Smart Eye Camera(スマートアイカメラ)」だ。眼瞼や角結膜、水晶体などが詳しく観察でき、白内障や緑内障発作などといった眼科疾患を診断できる。17年度の慶大医学部のビジネスプランコンテスト「健康医療ベンチャー大賞」で優勝(社会人部門)。19年6月には国内医療機器として登録し、同12月には特許も所得。今のところ価格は20万円程度だが、途上国への普及を促すため、さらなるコスト圧縮を検討中だ。

スマートアイカメラを装着したスマホを目にかざして画像診断する(右手は清水さん、左は中山さん)

海外からは期待の声も届いている。「われわれの国の医療の現実は厳しい。白内障で失明する人が少なくない」。20年2月、アフリカ南東部のマラウイから慶大医学部に招かれた眼科医のクンボ・カルア医師はそう訴えた。世界最貧国の一つである同国は、約1800万人の人口に対して眼科医は14人しかいないとのこと。オーストラリアや英国の大学などで学んだクンボ医師は、農村の貧困地帯を巡り、年間1000件もの白内障手術を手がけ、19年には英国のエリザベス女王から長年の功績を表彰された。停電が頻発するような地域では、仮に高額な医療機器があっても使用できないことが多いという。

清水さんら3人で起業したウイインクには、新たなメンバーも加わっている。海外戦略部長の中山慎太郎さんは、一橋大学法学部を卒業後に国際協力機構(JICA)などに勤務。19年に同じ学部出身の逆瀬川光人さんや、米国の大学を卒業した鹿嶋一成さんと一緒にウイインクに入社した。「長年、途上国の支援業務に携わってきたが、これまでと違ったやりがいを感じている」と話す中山さんは、19年にマラウイに赴いたとき「クンボ医師の医療スタッフがわずか5分でスマートアイカメラを使いこなせるようになった」のも目の当たりにしている。

ウイインクの目標は「2025年には世界の失明者の数を半分に減らす」と明確だ。ランセット誌に掲載された予測では、各国で進む高齢化や途上国の人口増加などを背景に、このままだと2050年の失明者は1億1500万人に増える。簡易な画像診断が可能になれば多くの患者を救える。

清水さんは「OUI Inc.代表取締役」と「眼科専門医」の2つの名刺をもつ。医療の問題点は実際の現場で働いていないと分からないため、診療日となれば半日で50人の患者を診察している。そこで得られた経験とビジネスの視点を組み合わせることで、医療全体のレベル向上や改善につながるとみる。あくまで眼科医がベースなのは2人の同級生も同じだ。不思議なほど重なり合ってきた選択の先に、3人でなければたどり着けない未来が待っているのかもしれない。

(代慶達也)

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