2度の大戦、核実験に耐えた米戦艦 深海で70年ぶり発見
米海軍の戦艦ネバダは二度の世界大戦を生き抜いた不屈の戦艦だ。1941年12月7日(日本時間8日)、真珠湾攻撃の際に始動できた唯一の戦艦であるネバダは、爆弾や魚雷を受けて炎上し、座礁した。しかし、その後の改修を経て、ノルマンディー上陸作戦ではドイツ軍への砲撃に参加。さらに沖縄や硫黄島への侵攻作戦をサポートした。
終戦後、ビキニ環礁で行われた最初の核実験の標的に選ばれ、23キロトンの空中爆発(ただし、爆弾は外れている)だけでなく、続く水中爆発にも耐えた。そして48年7月31日、第二次世界大戦で強靭さを誇った船は、米海軍による4日間の砲撃演習により、太平洋に沈んだ。
保管されている資料や海底調査の結果、戦艦ネバダの残骸が真珠湾の南西約120キロの海底に沈んでいることがわかり、2020年5月11日付のプレスリリースで発表された。この発見は、文化資産管理会社SEARCHと海洋ロボットで海底探査を手がけるOcean Infinityによる共同調査の成果だ。
戦艦ネバダは、太平洋の水深約4700メートルの海底に眠っている。初期調査の結果から、海底の泥の中に逆さまの状態で沈んでおり、残骸は船体から600メートルほどの範囲に散らばっていると見られる。船首と船尾はなくなっていた。
ノルマンディーから沖縄、硫黄島まで掌帆兵曹としてネバダに乗り込んでいたリチャード・ラムジー氏は、「船が見つかったのは大変すばらしいことです」と言う。
この調査が始まったのは、コロナウイルスが猛威を振るう20年4月だった。大規模な海洋考古学部門を持つSEARCH社と、たくさんの海洋調査装置を搭載した調査船を持つOcean Infinity社との間で、1本の何気ない電話のやりとりがあった。たまたま調査船が、ネバダが沈んでいると言われる海域を航行しているときだった。
SEARCH社の上級副社長で、海洋考古学者として自ら調査団を率いるジェームズ・デルガド氏はこう述べている。「思いついたのです。今このタイミングで、人間のあり方、特に米国人の心に何かを訴える船があるとすれば、それは不屈の精神や強さを象徴する戦艦ネバダしかないでしょう」
「偉大な老戦艦」
戦艦ネバダを沈めるには、4日半を要した。全長175メートルを超えるこの船は、核実験の標的艦を務めたことがあるため明るいオレンジ色に塗装されていた。真珠湾から曳航されて、機密の爆発物の標的となり、その後、海軍による演習で数日にわたって巡洋艦の砲弾や軍用機の爆弾を受け続けた。そして48年7月31日、米国の軍用機から投下された一発の魚雷が、ドイツや日本が成しえなかったことを成し遂げたと言われている。ついにネバダが海底に沈んだのだ。
しかし、多くの人がこの沈没劇を目撃していたにもかかわらず(船が沈むとき、太平洋艦隊司令官はAP通信の記者に対して「偉大な老戦艦だった」と述べている)、居合わせた船の航海士からは沈没現場の絶対方位ではなく、自船を基準とした相対方位しか報告されなかった。そのため、Ocean Infinity社の調査船パシフィック・コンストラクター号のオペレーターは、自律型無人潜水機(AUV)を使ってネバダ沈没の目撃者が述べたすべての方位を調査しなければならなかった。
実際に調査した海底は、面積250平方キロに及ぶ。見つかった残骸の画像は、調査船に搭載されていた遠隔操作型無人潜水機(ROV)からリアルタイムでフロリダ州にあるSEARCH社のオフィスに送られた。現在は、考古学者たちがこの画像の解析を行っている。
デルガド氏は、画像の予備調査の結果から、2発目の魚雷がネバダを沈没させた証拠があると考えている。「1区画全体にわたって船体に穴が空き、装甲がむき出しになっている部分を見つけました。しかし、外殻部分がはがれて破れているだけです」。デルガド氏は、厚さ約340ミリのニッケルクロム鋼製の装甲が今もROVのライトを受けて輝いたことに驚かされたという。
ネバダの沈没場所が明らかになったと聞いたラムジー氏は、「沈めるべきではなかったと思います」と話す。何と言っても、真珠湾攻撃とノルマンディー上陸の両方に就役した唯一の戦艦なのだ。「私の意見では、戦艦ミズーリとともに保存されるべきだったのです」。戦艦ミズーリは日本の降伏調印が行われた船で、現在は記念艦となっている。ラムジー氏は、ネバダは降伏の式典に招かれることもなかったと漏らす。
「これは船に対する屈辱そのものだと思います。この船で調印が行われてもよかったのです」
戦艦ネバダの残骸の分析は現在も続いている。
(文 KRISTIN ROMEY、訳=鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年5月14日付]
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