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気付かぬまま重症に 新型コロナのサイレント低酸素症

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

患者の家を訪れたノルウェーの医師マリ・セイム氏は当惑していた。

その60代男性の体調が変化したのは1週間以上前のこと。インフルエンザのような症状を示し、呼吸数が上昇しているという。セイム氏は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を強く疑いながら男性の家に向かったが、そこで目にしたのは予想外の光景だった。

「その男性は椅子に腰掛けて、ほほ笑んでいたんです」とセイム氏は言う。「少しも具合が悪そうには見えませんでした」

それでも男性の呼吸は速く、通常の3倍ほどのスピードだった。唇と指がかすかに青白くなっていた。男性がどれほど深刻な状態にあるかをセイム氏が本当に理解したのは、血液中の酸素飽和度を測定したときだった。正常だと90%を大きく超えるはずが、セイム氏が確認した数値は66%だった。一瞬、セイム氏は装置が故障しているのではないかと考えた。もう一度確認したがやはり66%で、セイム氏はすぐに救急車を呼んだ。

この男性が示していた症状は「無症候性(サイレント)低酸素症」。COVID-19の患者に広く見られるものの、初期には見落とされていた特徴である。ほかの呼吸器疾患とは異なり、COVID-19は初期段階でさほど息切れを起こすことなく、ゆっくりと体内から酸素を奪ってゆく。患者が呼吸困難や胸部の圧迫感を感じるころには、すでに重篤な状態になっていることもある。

無症候性低酸素症に驚かされる医師は少なくない。患者の中には、錯乱していてもおかしくないほど酸素が欠乏している者もいるのに、彼らは意識をはっきりと保ち、落ち着いて質問に受け答えをし、携帯電話も使える。科学者たちは、なぜCOVID-19がこのような症状を引き起こすのか、どのように体を蝕むのかを理解しようとしている。

息切れが起きない理由

息切れ(呼吸困難)は多くの場合、肺組織の弾力性の低下と並行して起こる。呼吸器疾患の多くでは、炎症などによって肺が硬化するが、それは体内の二酸化炭素の排出能力にも影響を与える。体内の二酸化炭素濃度が高まると、通常はそれがトリガーとなって呼吸の衝動が引き起こされる。二酸化炭素濃度の上昇によって脳に発せられる緊急警報が、つまりは息切れの正体だ。

COVID-19の患者の場合、病気の発症時には、どうやらこうしたトリガーが働いていないようだと、米ペンシルベニア大学で肺疾患および救命救急を担当する医師キャメロン・バストン氏は言う。通常であれば警報のトリガーとなるはずの二酸化炭素の増加が起こらないまま、酸素がひっそりと危険なレベルまで低下するというのだ。

「肺に問題がある場合、ほぼすべての臨床例において、酸素の吸収と二酸化炭素の排出の両方の問題を含んでいます」と、米国ニューヨークのベルビュー病院でCOVID-19の肺炎治療に10日間、ボランティアで協力した救急医のリチャード・レビタン氏は言う。「ただしこの病気は例外です」

無症候性低酸素症は、以前から高山の登山者やパイロットの間で見られた。高度が上がると気圧が下がり、呼吸に利用できる酸素は少なくなるが、呼吸が速くなることで、二酸化炭素の排出は継続して行われる。高度障害とCOVID-19では、原因も治療法も大きく異なると、レビタン氏は強調する。ただし、酸素の減少に対する体の反応の一つとして呼吸が速くなるという点はよく似ている。

こうしたプロセスは飛行機のパイロットでも確認されていると、ノルウェー特殊作戦司令部の医師であり、減圧治療を専門とするウィリアム・オッテスタッド氏は語る。「無症候性低酸素症はその特徴から、サイレントキラーとも呼ばれます」。その理由は、機内の圧力が急激に低下すると、パイロットが意識不明に陥り、飛行機を墜落させてしまうことがあるからだ。

無症候性低酸素症を早期に発見できると、COVID-19の症状改善に効果があるかどうかについては、まだ十分な研究が行われていない。それでも、低酸素症が長期化すれば、心臓やその他の体内システムに負担がかかる可能性があり、またバストン氏の指摘によると、補充酸素を投与された慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者は、平均余命が改善されているという。

肺で何が起きている?

現在のところ、コロナウイルスがどのように低酸素症を引き起こすのかについては、まだわかっていないことが多いと、オッテスタッド氏は言う。ただし仮説は存在する。

仮説の一つは、肺から血管へ酸素が移動する際に通過する「肺胞」が関係している。新型コロナウイルスは、ヒトの細胞表面にあるたんぱく質受容体に結合することで侵入する。この受容体は、肺全体にも肺胞にも豊富に存在している。

ウイルス侵入によって肺胞の細胞が損傷すると、肺胞から血液への酸素の通過が妨げられる可能性がある。一方で、二酸化炭素は、酸素よりも容易に血液から肺へと移動するため、さほど大きな影響を受けないと、オッテンスタッド氏は述べている。

もう一つの仮説は、肺の中の酸素移動と血液の流れにすれ違いがあるというもので、全米ユダヤ医療研究センターの呼吸器科医ウィリアム・ヤンセン氏が提唱している。通常、肺の中でも空気が多く通る領域には多くの血液が流れ、酸素を取り込みやすくしている。しかしこの機能が、COVID-19の患者では正常に働いていない可能性がある。つまり、損傷を受けた肺の領域により多くの血液が流れ込み、健康な部分への血流が少なくなっているのだ。

酸素が豊富な領域へせっかく血液が流れても、それが血管内にある小さな血栓によって妨げられることもあると指摘するのは、医療機関ジョンズ・ホプキンス・メディスンのイーニッド・ネプチューン氏だ。

血液が凝固しやすくなることが、COVID-19の患者の死因になっている可能性を指摘する声は少なくない。一部では、患者に抗凝血剤を使用して血液凝固を防ぐことも議論されているが、ヤンセン氏は、この手法を普及させる前に、まずは大規模な試験を行うべきだと警告している。

また、COVID-19に見られる無症候性低酸素症のメカニズムは、この病気特有のものではない可能性もあるとバストン氏は言う。少ない症例ではあるものの、氏が過去に診た患者の中には、細菌性肺炎など、ほかの病気が原因で無症候性低酸素症になった人もいるという。

心配な人は

現在、多くの医療専門家が、症状が進行していない限り、人工呼吸器の使用を控えることを提案している。その代わりに試みられるようになっているのが、酸素を補充したり、患者をうつぶせに寝かせて酸素の流れを良くしたりするなど、体内への機器の挿入を伴わない初期段階での支持療法だ。

レビタン氏は、COVID-19が引き起こす無症候性低酸素症への認知を高めることで、人工呼吸器が必要なほど重篤化する前に、人々が早い段階で病院に向かってくれるのではないかと述べている。家庭用のパルスオキシメーター(動脈血の酸素飽和度と脈拍数を測定する装置)も、COVID-19の諸症状を発症した患者をモニターするのに役立つと、レビタン氏は言う。

ノルウェーの複数の医療施設とスペインの大学の共同研究では、COVID-19の患者の協力を得て、パルスオキシメーターを含むさまざまな検査装置を使って、患者の状態の遠隔追跡を行っている。この研究が目指すのは、病気の進行を早期に発見すること、また軽症の患者が医療施設に長く滞在しなくてもすむようにすることだ。

医師たちは一般に、家庭用パルスオキシメーターの使用が病気の進行を監視するのに有用であることに同意している。しかしヤンセン氏は、この機器の使用にあたっては、必ず医療の専門家に相談するよう強調している。COVID-19に対する恐怖が拡大する中、人々が医療施設に行って感染する危険を避けようとして、医師と話をすることなく自己診断を行うようになっているのではないかと、ヤンセン氏は危惧している。

(文 MAYA WEI-HAAS、訳=北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年5月15日付]

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