人気は一人用炊飯器や電気圧力鍋 家電・上半期ヒット
20年上半期ヒット&下半期ブレイク予測
日経トレンディは6月号で「20年上半期ヒット大賞&下半期ブレイク予測」という特集を組んだ。本日はその中から「家電」分野について紹介する。
ノイキャン機能搭載のイヤホンは三つどもえの争いに
16年末にAirPodsが登場してから約3年がたち、完全ワイヤレスイヤホンが新たなステージに入った。これまでソニーが開拓してきた、周囲の雑音を電気的に打ち消す「ノイズキャンセリング」(ノイキャン)機能を最大手のアップルが独自に開発し、上位機の「AirPods Pro」に搭載。それを19年10月に発売したのだ。
従来のAirPodsは耳を圧迫しない「開放型」で、周囲の雑音が聞こえやすい欠点があった。これをAirPods Proでは耳穴にぴったりはまる「密閉型」に変更し、遮音性が向上。電車内でも雑音を気にすることなく音楽を聴けるようになった。これが電車通勤の多い日本人にマッチして人気が沸騰。税込みで3万円前後と高価にもかかわらず、一気にシェアトップに立った。ノイキャン搭載イヤホンはソニーも出しているが、AV評論家の折原一也氏は「日本はiPhone利用者が多いので、イヤホンのブランド力は今やアップルのほうが上」と分析する。4月にパナソニックもノイキャン市場に参入。今後三つどもえの争いになりそうだ。
●【2020年上半期ヒット大賞】電車通勤が多い都市部でノイキャンが爆発
2016年12月に発売した「AirPods」で、完全ワイヤレスイヤホンを世界に普及させたアップルが、上位版「AirPods Pro」の発売で王座を揺るぎないものにした。CMでは、騒音を打ち消す効果があるノイズキャンセリング機能をシンプルに訴求し、税込み3万円以上と高価にもかかわらずシェアトップを獲得。公式通販サイトでは2~3週間待ちの状態がしばらく続いた。「電車通勤とiPhoneユーザーが多い日本の状況にマッチした」(折原氏)のも追い風になった。
●【下半期ヒット予測】「テクニクス」で真っ向勝負
スピーカーやレコードプレーヤーの高級ブランドとして定評のある「Technics(テクニクス)」ブランドを冠したノイキャン・完全ワイヤレスイヤホンをパナソニックが4月中旬に投入した。完全ワイヤレスイヤホンは同社初となる。実勢価格3万2000円(税込み)とAirPods Proを超える価格だが、「発売直後にランキングで1位になるなど、注目度は非常に高い」(カカクコムの鎌田氏)AirPods Proにどこまで迫れるか注目だ。
巣ごもりで調理家電は絶好調
共働き世帯の増加で電気圧力鍋など「時短家電」の人気が高まり、調理家電は全体的に好調だった。その中で異彩を放ったのがサンコーの「おひとりさま用超高速弁当箱炊飯器」。従来50分近くかかっていた炊飯時間を14分まで短縮し、「単身者もパックご飯ではなく炊き立てを食べたい」というニーズを獲得。税込み6980円と安くはないが、2万個以上を売り上げている。
●【上半期ヒット】お一人様も3食温かいご飯が食べたかった
0.5合なら最速14分、1合でも19分で炊ける超小型炊飯器が、発売後2カ月半で2万台を受注。6980円(税込み)と安くはないものの、キッチンに行かなくても調理ができる卓上調理機器の需要が大きいことをつかみ製品化。重さ840gと持ち運びも可能で、単身者以外にオフィスで炊き立てのご飯を食べたいという需要も捉えた。
●【上半期ヒット】10年ぶり刷新の電気圧力鍋が好調
4~5年前から徐々に拡大してきた電気鍋タイプの自動調理機市場。そこに、電気圧力鍋を1977年から販売するパナソニックが10年ぶりに新製品を投入。「19年10月~20年2月は計画比で約6倍」(パナソニック)と順調に販売台数を伸ばしている。新たに無水調理に対応し、予約機能が付いた。カレーなら4~5人分作れる大容量も受けた。新型コロナによる外出自粛によって、自宅で料理をする機会が増えたこともあり、まだ販売数を伸ばしそうだ。
●【上半期ヒット】コーヒーカプセルのサブスクも好調
濃厚な「泡(クレマ)」を楽しめるカプセル式コーヒーメーカーが同社の直営店では計画比2倍近くのペースで売れている。カプセルによっては414ミリリットルのラージサイズで抽出でき、たくさん飲みたい人のニーズもつかんだ。毎月2400円分のコーヒーカプセルを選ぶ定額契約をすれば、税込み100円で本体を利用できる「コインプログラム」も好評という。
下期は娯楽施設に代わる機器が需要増
2月からの新型コロナの影響で爆発的に伸びているのがテレワーク関連市場だ。「ノートパソコン、ウェブカメラ、ヘッドセットは既に品薄状態。Wi-Fiルーターや液晶ディスプレイも伸びている」(カカクコムの鎌田剛氏)。この自粛生活がさらに長引いた場合には、自宅を娯楽施設に変える製品の需要が高まる。特に有望なのは、パソコンなどをつながなくてもネット動画を再生でき、自宅が「映画館」になるアンドロイドOS内蔵プロジェクターだ。「19年は製品が少なかったが、今はOS内蔵プロジェクターの選択肢が増えている」(折原氏)。自粛疲れで荒んだ心を癒やすという意味では、子供の遊び相手になる「LOVOT」(GROOVE X)のような家庭用ロボットの需要も増えそうだ。
●【上半期ヒット】自作PCで人気のCPUがついに市民権を得る「Ryzen搭載PC」
Windows 7のサポート終了(20年1月)に伴ってパソコンの買い替え需要が急増。品不足でパソコンの平均単価が上昇傾向にあり、知名度では劣るが割安なCPU「Ryzen」搭載機の人気が高まっている。国内最大手のNECパーソナルコンピュータも主力の「LAVIE Note Standard」でRyzenモデルを19年夏から拡充して後押しした。
●【上半期ヒット】ミラーレスに本腰を入れ復活の兆し
2018年にミラーレスカメラ市場に再参入したニコンが、「Z 50」で復活の兆しを見せている。BCN調べでは、19年10月~20年3月の販売金額ランキングで5位。APS-Cサイズのイメージセンサーを搭載した入門者向けカメラで450gと軽量なのが特徴だ。「特にダブルズームキットが売れており、過去半年の新製品ではかなり健闘したといえる」(BCN道越一郎氏)。
●【上半期ヒット】4000円を切る価格破壊で人気に
19年12月に日本に初上陸した中国のシャオミ。5種類発売された新製品のうち、実勢価格3839円(税込み)と格安ながら心拍数と睡眠を計測できる時計型の活動量計が人気だ。Amazon.co.jpの活動量計ランキングで1位を長期間獲得。コスパが高いことに加えて、製品発表会に多くのインフルエンサーを招き、SNSなどで情報配信してもらう戦略も奏功した。
●【上半期ヒット】スマホ消毒のニーズが高まり火が付く
紫外線の照射により、99%の雑菌を除去できるとうたう装置。20年1月にMakuakeで先行販売をした時点で、270万円以上を集める人気商品だったが、新型コロナウイルス感染症が広まってからさらに爆発。4月中旬時点で2カ月待ちとなった。「マスクの除菌目的で買う人もいる」(蔦屋家電エンタープライズ)。
●【下半期ヒット予測】映画館に行きづらい悩みを解消「Android TVプロジェクター」
「Anker Nebula Capsule II」(アンカー・ジャパン)など、Android TV機能を搭載し、単体でAmazonプライム・ビデオやNetflixなどの映像を楽しめるプロジェクターが伸長している。外出自粛が続けば、自宅を映画館にしたい人も増えるだろう。写真はアンカー・ジャパンが20年2月にMakuakeで先行販売した「Nebula Cosmos」。他のメーカーからも類似製品が登場する見込みだ。
●【下半期ヒット予測】テレワークが進めば買い替え候補に「Wi-Fi 6ルーター」
テレワークを始めて「自宅のWi-Fiが遅い」と感じた人は多い。10年前に主流だったIEEE802.11nからの買い替えで、最新規格のWi-Fi 6(IEEE802.11ax)ルーターが伸びる。20年に入って、「Archer AX10」(ティーピーリンクジャパン)のように1万円前後で購入できる製品も増えている。
●【下半期ヒット予測】小型プリンターに続いて期待
19年に様々な場所に印字できる小型プリンターを発売して注目されたリコーが、今度は持ち運べるプロジェクターを製品化。現在クラウドファンディングで目標の2倍以上を獲得している。バッテリーで駆動し、壁や床、天井などに自由に投写できる。
●【下半期ヒット予測】「癒やし」となるロボットがブレイク?
19年12月から正式販売が始まった家庭用ロボットが、税別29万9800円にもかかわらず「緊急事態宣言が出てから注文数が170%増えた」(GROOVE X)。離れた部屋で子供を見守る機能もあり、自宅で子供の面倒を見る人にも広く受け入れられそうだ。
●【下半期ヒット予測】全国100万人の和太鼓奏者が飛びつく
日本では100万人以上が和太鼓を演奏していると言われる。しかし音量が大きく練習場所が限られるため、個人で所有している人は少ない。その市場を狙うのが「TAIKO-1」だ。音量を調節できるデジタル太鼓の登場で、他の楽器との合奏も容易になり、太鼓人口の増加も期待できる。
(日経トレンディ 大橋源一郎)
[日経トレンディ2020年6月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。