その食品、健康にいいって本当? 栄養疫学が問う根拠ケンブリッジ大学 医学部上級研究員 今村文昭(1)

ナショナルジオグラフィック日本版

英国ケンブリッジ大学MRCに所属する栄養疫学者の今村文昭さん。
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物の知見にふれる人気コラムです。今回転載するシリーズのテーマは、食べ物の効果や影響を考え、その要因や対策を追究する「栄養疫学」。同じ「よくわからない」という結論でも、その根拠の深さに大きな差があること、そして情報をうのみにする怖さを教えてくれます。未知のウイルスに向き合うときのヒントにもなるかもしれません。研究者の濁りのない目がみつめる先にも注目です。

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「健康によい食事」や「体に悪い食べ物」など、健康情報のなかでも人気の「食」の話。だがそれだけに、極端だったり矛盾したりする話も多く、何を信用していいのか分かりにくいのも確かだ。そこで、食と健康にまつわる根拠(エビデンス)を提供する栄養疫学の専門家として、世界的に活躍する今村文昭さんの研究室に行ってみた!(文・写真 川端裕人)

今の世の中には、いわゆる健康情報が満ち溢れている。

どうすれば、より健康になれるのか、誰もが知りたい。

特に食事にかかわる情報は人気だ。何を食べればよいのか。なにがヘルシーで、なにが危険な食べ物か。

栄養素レベルでは、最近では追いきれないほどたくさんの種類のサプリがドラッグストアの棚に並んでいる。そういえば、かつて悪者の代表のように扱われていた脂質も、不飽和脂肪酸という種類のものは体によいらしい。一方、炭水化物の評判はすこぶる悪い。毒だと言い切る人すらいる。脂質悪者論の時代から炭水化物ヘイトの時代へのうつりかわりが、たぶん平成の健康情報の一大イベントだったのではないだろうか。

食材レベルでは、野菜や果物は今も昔もヘルシーな食べ物だと思われており、タンパク質の供給源としては魚やチキンがよいというのもよく聞く。悪者にされがちなのはやはり炭水化物系で、砂糖はもちろん、白米を代表とする「精製された穀物」を食べることの是非が取りざたされる。その一方で、肉はどうだろう? 近所のステーキハウスは「肉は健康食!」と大きく書かれたパネルを掲げて客を呼び込んでいるが、それって本当にいいのだろうか。

食事パターン、いわば献立のレベルとしては、「地中海ダイエット」(地中海食)がすでに市民権を得ているかもしれない。野菜や果物、ナッツ、全粒粉のパン、魚介類、チキン、オリーブオイルや適量の赤ワインといった、地中海世界でよく食べられているものを真似た食事が健康的に優れているというもので、近所のイタリアンファミレスに行くと強力にプッシュされている。一方で専属コーチ付きのジムに通う知人は「低炭水化物食ダイエット」を信奉している。肉中心の食生活をよしとして、外食でステーキを頼んだ時にマッシュポテトがついてきても手を付けない。可能なところではブロッコリーなどにかえてもらうという。

こういったことは、それぞれどれだけ妥当なのだろう。極端に感じるものも多いし、お互い矛盾するものもある。

信頼できる判断の基準はありうるのだろうか。医療には、EBM(根拠(エビデンス)に基づいた医療)という概念があり、各学会がガイドラインを作って標準的な診断や治療を定めている。だから、ぼくたちは治療を受ける時にそれが妥当かどうかまずはガイドラインを参照することができるし、さらにそのもとになっているエビデンスを見ることもできる。

この時に言うエビデンスは「科学的根拠」と訳されることが多く、もともと疫学という学問に由来するものだ。日本では占いの「易学」と混同されることがあるほどマイナーな分野だが、実は様々な応用科学分野での実践に「根拠(エビデンス)」を与える重要な役割を担っている。医療におけるEBMは、まさにその具体例だ。

そして、食についても栄養疫学という分野があって、日々、まさにぼくたちが知りたい「よい食べ物」「悪い食べ物」について研究を深めている。食物に関する健康情報の多くは栄養学の範疇だと理解されていると思うけれど、その「根拠」の多くを提供するのが栄養疫学だ。ならば、直接、栄養疫学者に話を聞いてみたい。そんなふうにずっと思っていた。

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