在宅勤務で「ブラック家庭」にしない 心身ケアに知恵
日経ウーマノミクス・プロジェクト調査(下)
日経ウーマノミクス・プロジェクトの会員に実施したアンケートでは、1400人の7割が今後も在宅勤務を続けたいと回答した。一方、数カ月たち家族の問題や孤独感、体調管理の課題も浮上している。長期化を視野に工夫し、新たなワーク・ライフ・バランスを模索する動きを追った。
夫と共に在宅で働いている小山雪さん(仮名)の始業は早い。仕事に集中できるのは朝6時から、保育園の登園自粛中の2歳の娘が起きるまでの約2時間だ。寝かしつけなど子供の世話で、どうしても進まない分は土曜日に補う。
同じ課の6人が参加する雑談チャットのおかげで仕事がやりやすくなった。中断しパソコンから離れるときは伝え、負担が大きくなったら助け合う。「職場では会話のタイミングが難しかったが、チャットなら会話の履歴が分かり、輪に入りやすい」という。
「家事は家庭運営上のタスク。誰かが追い詰められるような『ブラック家庭』になってはいけない」と小山さん。家事も育児も分担し、娘が来たら5分間向き合うと夫婦で決めた。「娘はストレスで不安定。一度泣き出すと手がつけられない」。夫と交代して時短勤務からフルタイムに戻す予定をやめた。夫は5月から時短勤務だ。「夫は1カ月程度の休業も検討している。今は子供と向き合う時間を増やしたい」
Eコマース運営企業で働く小林祐子さんも夫婦で在宅勤務中だ。夫は個室、妻はダイニングと「職場」を分けて仕事に集中。オフィスチェアなど夫婦で約3万円投資した。
家事分担は夫婦で話し合った。「昼も夜も食事をつくるのがつらかった」からだ。平日は妻、週末は夫の担当に。自身は雑誌に掲載される献立表を見て、悩まず準備する。
太らないように運動器具のステッパーを踏みながら資料を読み、台所のカウンターにパソコンを置き立って仕事をすることも。集中力が増すと採用する企業もある「スタンディングワーク」だ。好きな音楽を聴いて進める仕事は効率的で、通勤時間分は学芸員の資格取得に向けた勉強に充てる。「在宅9割、会社1割が理想。実現できたら住まいは東京でなくてもいい」と話している。
今回の調査では意識的に体調管理をする人が目立った。そんな社員をサポートする企業も出ている。パソナは平日午後2時30分から5分間、ウェブエクササイズを無料配信中。現在約30社が利用、300人以上が参加する。
もっとも、長期間在宅勤務を続けるのは孤独でもある。化粧品メーカーで働く貝塚文さんは、3月下旬に在宅勤務を始めた当初、一人暮らしなこともあり、「さみしいし怖いし、雨の日は気持ちが沈んだ」。同じ空間で1日過ごすため、行動に区切りをつけることにした。
起床後は約1時間のウオーキングに出かけ、昼食用のパンを買って帰る。ランチ写真を同僚と送り合う。終業後はすぐ入浴し、リラックス。自分だけのために日々の仕事の記録も始め、「昨日より今日の自分が進んでいることを確認している」。それでも連日の緊急地震速報には震えた。身近にヘルメットを置き、母親に電話をすることで元気を保っているという。
自分の時間を大切に 産業医・石井りな氏に聞く
心身の健康を維持しながら在宅勤務を続けるために必要なことを、産業医で精神科医の石井りな氏に聞いた。
――在宅勤務中の女性からどんな声が届いていますか。
仕事と育児の両立が過酷だという声が多い。今の在宅勤務は平常時と違う。学校の休校で子供の面倒をみたり、勉強の確認をしたりで仕事が終わらない。家の中の環境を整える必要もある。一方、普段より親子のコミュニケーションが充実するといういい点も。子供1人に対し30分と決め、その時間はじっくり向き合うという人もいる。
――企業はどうサポートするといいですか。
定時の始業・終業のミーティングで社員の生活リズムを崩さないことも大切だが、日々の就業管理は負担という人も。1週間単位で就業管理を可能にするなど柔軟な対応が必要だ。上司からは「何かあったら言って」ではなく「体調はどう?」など、部下への積極的な健康確認を推奨したい。自社の産業医と健康管理について話し合い、産業医がいない場合は、社員同士が話せる機会を設けてほしい。
――個人でストレス超過を避けるためにできることは。
夫婦ともに在宅勤務の家庭では「夫だけが自室に籠もり、家事と育児の多くを私が担っている」という不満も届いており、その結果、夫婦関係が悪化したというケースも聞く。夫婦で相談して育児の割り振りをすることが大切だ。毎日、1人になれる時間を確保することが欠かせない。オンラインで家族以外の友人などと話すことも気分転換になる。
(清水玲男)
意識改革 進むチャンス
2019年末に日本経済新聞社が実施した「働く女性2000人調査」では、男性中心の企業風土や根強い性別役割分業意識が女性の活躍を阻んでいるとの意見が多かった。ところが今は性別を問わず多くの人が自宅にとどまり、家庭と仕事が切り離せない生活を送っている。各人が意識を変え、ルールを見直すことで在宅でも効率的に仕事ができるようになってきた点は大きい。
ただ、収束の兆しが見えない中で、先行きへの不安や家族を心配する気持ちは日に日に高まっていく。今後は心や体へのケアがより大事になってくるだろう。安心して在宅勤務ができる日常が戻ったときに、立ちはだかっていた意識の壁が崩れ、誰でも働きやすい環境が整うことを期待したい。
(女性面編集長 中村奈都子)
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