静岡県立伊東商業高校(同県伊東市)の教諭、米山圭一郎さんも、日本公庫のビジコンを通じて生徒を刺激し続けてきた。商業科の選択科目「生活に役立つ経済学」を受ける生徒に呼びかけ、14年度に初参加。15年度から5年連続で同じ校内の複数チームのプランが「ベスト100」に選ばれた全国唯一の学校になっている。

米山さんは同校の生徒について「勉強にコンプレックスがあり、おとなしく、人の後ろをついていくタイプの生徒が多い。なんとかその背中を押してやりたい」と話す。ビジコンは商業科の本領を発揮できる、うってつけの舞台でもあった。

自分の変化に驚く

19年のベスト100になったのは「“ナマコ”が温泉地の人気お土産品に大変身!?」というプラン。地元で多く水揚げされるナマコに美容成分があることを生徒が知り、乾燥ナマコの粉末を温泉まんじゅうに練り込んだ「なまこ饅頭(まんじゅう)」を考案。地元の菓子メーカーに協力を依頼し、商品化した。

「なまこ饅頭」に関する発表に向けて練習する伊東商業の生徒たち

企業への最初の電話から訪問、交渉まで、すべて生徒が担った。メンバーのひとりで今春卒業した後藤史華(ごとう・ふみか)さんは、自分が大きく変わったことを実感した。「年上と話す機会が多くなった。会社に取引を持ちかけるなんて、高校生がめったにできる経験ではないですよね」と振り返る。

同じ学年だった杉本和佳奈(すぎもと・わかな)さんは人生の進路が変わった。入学当時は「将来は事務職と決めていた。あまり話さなくていいイメージがあったから」というほど、人と話すのが大の苦手。ビジコンも授業に組み込まれているから参加したのが正直なところだった。

サイズが小さく市場に出回りにくいサバの活用プランを考えているうち、サバに関わるビジネスに興味がつのった。そしてプランづくりへの協力を依頼したサバずし専門店の鯖や(大阪府豊中市)に就職し、4月から東京都内の店舗で働いている。杉本さんは「あんなにコミュニケーションが苦手だったのに、自分に驚いています」と笑う。

江戸川学園取手高校(茨城県取手市)の1年生、黒田諒さんも、ビジコンで自分が変わったと感じるひとりだ。黒田さんは中学3年だった19年に仲間3人で参加した「モノコトイノベーション」で優勝した。

19年のモノコトイノベーションで優勝した黒田さん(左端)のチーム。当時は中3だった

モノコトイノベーションは、創造力を育成するための体験授業などを手がけるキュリオスクール(東京・目黒)が主催する中高生向けのビジコン。提示された課題の解決に役立つモノを競い合うが、発表までの過程を企業がサポーターとして支援する仕組みになっている。

家庭用品大手のライオンがサポーターとなった黒田さんのチームは、中高生がスマホから離れる時間をつくるための装置を提案した。クマのぬいぐるみのような装置にスマホを置くと、LINE(ライン)などで連絡が入っても「今は休憩中だよ」と自動返信することができる。中高生の「未読のまま無視されるのはいや」という気持ちに寄り添っていると評価された。

黒田さんはライオンの研究開発部門であるイノベーションラボの若手社員と接するうちに「苦手意識があった目上の人とのコミュニケーションが苦にならなくなった。今では先生や先輩にどんどん質問できる」と話す。黒田さんの母親も「時間を守り、丁寧な言葉を使うなど、生活態度に変化があった。社会で働く方と一緒に活動する中で責任感も出てきた」と喜ぶ。

連載の1回目で紹介した日本財団の意識調査では、日本の17~19歳は「自分で国や社会を変えられると思う」との回答が18.3%、「社会課題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」は27.2%にとどまり、米英中韓を含む9カ国の中で際立って低い数字だった。その背景を考えて、木津高の近美さんの言葉が浮かんだ。「これまで自分と関係ないと思っていた社会の課題に目を向けるようになった。すべて自分と無関係じゃないって思える」。ビジコンはなぜ近美さんを変えられたのか。そこにヒントがある。

ビジコンだけでなく、いろいろな場があっていい。きっかけさえあれば、高校生は動きだす。自分にも何かできる、ひとりではなく社会と関わっている、そんなことも実感するようになる。きっかけをつくるために、例えば「大人になるって面白いよ」と後押しできるのは、ほかでもない、大人だ。

(藤原仁美)

学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録