本格キーボードを用意 新iPad ProはPC代替に使えるか
戸田覚の最新デジタル機器レビュー
在宅勤務が一気に広がった結果、パソコン(PC)やタブレット端末が売れている。そんななか注目されているのが、アップルが3月に発表した「iPad Pro」の2020年モデルだ。iPad Pro用にアップルが用意した専用キーボード「Magic Keyboard」はトラックパッドが付いているので、iPad ProをよりPCらしく使える可能性が広がる。
性能とカメラが進化した
2020年モデルのiPad Proには、11インチモデルと12.9インチモデルがある。今回は、11インチモデルをレビューするが、進化点は、12.9インチモデルも基本的に変わらない。
外観は前モデルとほぼ同じだが、最も大きな違いはカメラを2つ搭載したことだ。通常のカメラに加え、超広角カメラを搭載している。最新のスマートフォンでは3つ以上のカメラを搭載することも珍しくないが、iPadとしては初めての複数カメラ搭載となる。
超広角カメラは、後ろに下がれない場所でホワイトボードなどをメモ代わりに撮影する際に重宝する。海外ではiPadでスナップ写真を撮っている様子をよく見かけるが、日本ではそのような使い方はあまりしない。
また、外観からはほとんどわからないが、新たに「LiDARスキャナー」を搭載している。これは、光の反射で距離を測る専用の装置だ。拡張現実(AR)系のアプリケーションで特に利用価値がある。標準の「計測」アプリで机などの長さを測る際にも、iPad Proの前モデルやiPhoneよりも圧倒的にレスポンスよく作業ができるようになった。
CPUは、「A12Z Bionic」を採用した。前モデルは「A12X Bionic」だったので、その進化は微妙だ。とはいえ、その性能はモバイルノートPCが搭載するCPUに引けを取らないので、がっかりすることはないはずだ。
Magic Keyboardはとても打ちやすい
Magic Keyboardは、iPad Pro専用のオプション品で、11インチと12.9インチのそれぞれのモデル向けに発売されている。作りは非常に凝っている。iPad Proを磁石で取りつけて、宙に浮かすような形で利用する。ただし、角度調整の幅がそれほど大きくないのは残念なところ。机上で使うには文句なしだが、膝の上に置くとやや画面が見づらい。
Magic Keyboardのキーボードは、ノートPCの「MacBook」が搭載するキーボードと基本的に同じ設計で非常に打ちやすい。トラックパッドも操作しやすく、確かにPCに近い操作が可能になる。
トラックパッドの恩恵を感じるのは、ブラウザーでウェブサイトを閲覧したり、動画を見たりするような作業よりも、ワープロや表計算を使う際の範囲指定といった緻密な作業をするときだ。画面をタッチ操作するよりも使いやすく感じる。特に、アップル製の表計算アプリ「Numbers」は、いち早くトラックパッド操作に対応しており、まさにPCと同じ感覚で利用できる。
マイクロソフトの表計算アプリ「Excel」なども遠くない将来、トラックパッド操作に対応するだろう。それによりiPad ProとPCの違いはより少なくなる。ただし、iPad ProではExcelのマクロや業務用アプリは利用できないので、仕事用としてはある程度の割り切りが必要になる。
キーボードからの充電も可能だがやや重い
Magic Keyboardには、USB-C端子が付いていて充電も可能だ。つまり、Magic Keyboardに付いているUSB-C端子で充電をしながら、本体のUSB-C端子は外付けモニターにつないで使う――といったことができるのだ。
非常に魅力的なMagic Keyboardだが、キッチンスケールで計測すると本体込みで、1072グラムとかなり重いのがいただけない。ちなみに、iPad Pro本体は473グラム、専用カバー「Smart Folio」との組み合わせは649グラムだ。また、Magic Keyboardは、3万1800円(11インチ用、税別)と価格も立派だ。少し足せば、iPadのエントリーモデルが買えてしまう。
手書きが魅力
iPad Proを含めたiPadがPCより魅力的なのは、Apple Pencilによる手書きに対応することだろう。PCにも専用ペンが利用できる「2in1モデル」があるが、Windowsの手書きアプリは質・量ともにiPadに遠く及ばないのが実情だ。
単にPCの代わりに使うのではなく、手書きを含めた新しい使い方のできるデバイスと考えれば、仕事に大いに役立つだろう。
2020年モデルのiPad Proの本体価格は、旧モデルに比べると安くなっているのが素晴らしく、11インチモデルはアップル公式オンラインストアで8万4800円(税別)から購入できる。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は150点以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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