走りはよりスポーティーでアグレッシブに

まずは1.5Lガソリン車に乗ってみた。確かに、スタイリングの凝縮感はハンパじゃない。サイズは厳密に見ると全長が5mm短く、全高はアンテナ分を除くと30mmほど低くなっているが、実質ほぼ同等。しかしパッと見でノーズが低くなってキャビンが引き締まり、パーソナル感が増している。リアもコンビネーションランプが棚のような樹脂パーツでつながり、ヴィッツ時代のイメージを残しつつも、確実にアグレッシブに生まれ変わっている。

車内はホイールベースを40mm伸ばしたため狭くなった感じはなく、先代と同等。リアシートに一応大人2人が座れるし、ラゲッジ容量は200Lクラス。ゴルフバッグは背もたれを倒さずには積めないが、大きめのかばんはいくつか積載できる。

驚いたのは走りのスポーティーさだ。新開発の「1.5Lダイナミックフォースエンジン」は先代の4気筒から3気筒になった分、エンジンノイズは騒がしくなったが、ピークパワーとトルクはそれぞれ120ps、145Nmとアップ。発進用に1段ギアを設けた新作ダイレクトシフトCVT(無段変速機)のおかげで、踏み始めからペダル操作に忠実で、なおかつ力強い。

ステアリングはしっとりと上質感を備えつつ、フィーリングはダイレクトでリニア。ちょっとした高級スポーツカー並みのテイストが味わえる。車重はホワイトボディー(部品を取り付ける前の無塗装状態のボディー)が旧型比で50kg軽量化され、小沢が乗った「G」グレードでも1トンぴったりと軽量だ。全体的に動きが軽やかで、取り回しもコンパクトカーならではの気楽さがある。ドライビングポジションも、小さいクルマにありがちな右足の窮屈さがなく、自然にゆったりと座れる。

とはいえやはりコンパクトカー。特にライバルのフィットと比べると運転席はタイトだ。フロントウインドーが目前に迫り、リアシートも狭く、広々感があるとは言えない。

さらにヤリスが不思議なのは、いまどきハイブリッド仕様を除いてアイドリングストップが付いてないこと。明らかに欧州向けのセッティングで、いくら走りとカッコが良いとはいえ、初期受注でよくぞあれだけ売れたものだ。

後席は広々とは言えないが、大人2人がちゃんと座れるだけの広さはある

だが3万7000台の内訳をみて納得した。まずハイブリッド比率は45%。後述するが、ハイブリッドのスポーティーな動力性能と優れた燃費性能の割に、その比率は高くない。おそらく約40万円というガソリン車との価格差が響いているのだろう。

そしてユーザー年齢層を見てびっくり。なんと60歳以上が半分を占めている。おそらく海外、特にヨーロッパではスポーティー化によって若いユーザーも増えているようだが、日本ではヤリスは実質シニアカーなのだ。

しかし、それも理解できる。なぜなら数年前に70代の母が、私に何の相談もなくホンダの軽自動車から先代ヴィッツに乗り換えたのだ。「さすがはトヨタ、年配の方には盤石の安心ブランドなんだな」と感心した。

さらにヴィッツは、ダイハツ生産車を除くと最もコンパクトなトヨタ車。つまり、トヨタブランドに安心感を覚えるシニア層が、使い勝手のいいコンパクトカーを求めて乗るクルマが、ヴィッツであり、ヤリスなのだ。

燃費は驚異のリッター30km!

そしてガソリン車の後に乗ったヤリス・ハイブリッド車がすごかった。車両価格200万円台からと、確かに安くない。だが走りは電動感たっぷりで、1.5Lガソリンに輪をかけてパワフルだ。

決定的なのは燃費で、メーターの燃費表示でざっくり30km/L台! 普通に走って22~23km/Lのプリウスやカローラ ハイブリッドをラクに超えて、未知の大台に到達している。

この燃費性能は問答無用ですごい。なにしろフルタンク、36Lのガソリンで実質1000km以上も走るのである。燃料代も1リッター130円として約4500円。普通の人なら2カ月近く持つだろう。

普通のファミリー向けコンパクトカーとして見るとヤリスは偏っているし、家族5人が乗るクルマとしては正直狭めだと思う。しかし乗ってみると、よくできたスポーティーコンパクトカーであり、シニアが安心して選べる最小トヨタ車であり、超低燃費実用車でもある。そう考えると、存在感は大きい。

クルマの本質は単純な性能比較だけでは語れないのである。

末沢泰謙氏(右)。91年入社。01年より04年までトヨタ・モーター・ヨーロッパに駐在し、欧州生産車の商品企画を担当。08年より製品企画本部主査として、2代目オーリス、11代目、12代目カローラの製品企画を担当。15年からは主査としてアクア、ヴィッツ、ヤリス、アイゴの製品企画に従事。16年からチーフエンジニアとして新型ヤリスの開発を率いた
小沢コージ
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」など。主な著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。

(編集協力 出雲井亨)

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