250番組が無料 公式見逃し配信「TVer」が目指す先
見逃してしまったテレビ番組を、スマートフォンやPCなどを使って、放送直後から次回の放送まで約7日間完全無料で視聴することができる動画配信サービスの「TVer」。2015年に在京民放5社が中心となってサービスを開始し、19年7月にはアプリの累計ダウンロード数が2000万を超えるなど、年々注目度が上がっています。
TVerのサービスと今後の展望について、立ち上げ時から携わる、フジテレビのコンテンツ事業室部長職・野村和生氏にお話を伺いました。聞き手は、MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで、次世代の"エンタテインメント×テクノロジー"の新規事業開発を担当してきた鈴木貴歩さんです。
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――TVerを立ち上げるきっかけは何だったんでしょうか?
理由としては大きく2つあります。1つ目はネットに上がっている違法動画に対抗し、正式な視聴体験をしてもらうため。2つ目は、若者層にリーチするためです。29歳以下のテレビ保有率は9割を切っているというデータも出ていますからね。
15年10月にサービスが始まりましたが、スタート当初はどのテレビ局も社内からの協力を思ったように得られず、ドラマを中心に約50番組しか見られませんでした。ただ約1年後にはアプリのダウンロード数が500万を突破、予想以上の結果となったことで、各社とも協力体制を築け、現在では約250番組が見られるようになっています。
19年4月にテレビでも視聴ができるアプリをリリースして以降は、フジテレビが配信する番組の集計データによると、視聴時間が一気に1.5倍になりました。
――ジャンルでは、ドラマは特に相性が良さそうですね。
ドラマの場合、初回を見逃すと見てもらえないケースもあるので、作品によっては第1話だけ3週間見られるようなこともしています。他にもドラマがスタートする前に、出演者の関連作品や、シリーズものであれば過去作を流すといった取り組みも。例えば、昨年の大ヒットドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)は2クール制だったので、第2章が始まる前に、第1章を期間限定で配信していました。
バラエティでは、特に人気が高いのがマツコ・デラックスさんや有吉弘行さんなどの番組ですね。あと視聴者層が、テレビに比べると10歳ほど若いので、『テラスハウス』『あいのり』(共にフジテレビ系)といった恋愛リアリティショーはよく見られています。最近はアニメも数が増えてきていて、『名探偵コナン』(読売テレビ・日本テレビ系)や『ワンピース』(フジテレビ系)などが人気です。
民放各局で連携した取り組みも始まっています。19年3月には、「TIMESLIP TVer」と題して、懐かしの番組を各局が用意。TBSはドラマ『オレンジデイズ』、テレビ東京は『大食い選手権』などを配信しました。さらに近年は地方のテレビ局も参加し始めているので、『よしもと新喜劇』(毎日放送)といった、関東の地上波では放送していない地方のローカル番組まで見られるのも特徴の1つだと思います。
CMの完全再生率95%超え
――今後の課題は、視聴数を伸ばしていくことでしょうか?
やはり、他のメディアの視聴数と並べるようにしたいですね。現在、TVerの1カ月のアクティブユーザー数は945万人。テレビは1.2億人、YouTubeは6000万人と言われているので、数千万人ぐらいをまずは目標にしています。そうすれば、CMを出稿したいという企業も今よりもっと増えてくる。
TVerの場合、最初に視聴者アンケートを取っているので、CMを年齢、性別、エリアごとに届けることができます。しかもスキップができない仕組みのため、完全再生率が95%を超えるなど、他のメディア広告にはない強みもあります。動画広告の市場はYouTubeがけん引する形で、現在2000億円にまで伸びてきているので、その一角を狙ってきたいですね。
また3月からはNHKが見逃し配信に加えて、同時配信サービスも始めました。もし民放でも同時配信サービスを行うとなった場合、どうやって収益化するのかがポイントになってくる。今後はそのあたりを各社としっかり協議していければと考えています。
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スズキの視点
TVerの立ち上げから初期にかけての話は、違法動画対策、若者、そしてテクノロジーの生み出す環境への対応と、音楽ストリーミングサービスをレーベルからサポートしていた状況と重なり、うなずくところが多々ありました。そして現在では、「見られなかったからTVerで見よう」という認識にかなりの人がなっていると思います。海外では過去のテレビ番組の配信にも積極的なので、ぜひTVerでも(有料販売も含めて)過去作が見られる、"フリーミアム"モデルも視野に入れてほしいです。
ParadeAll代表取締役。"エンターテック"というビジョンを掲げ、エンタテインメントとテクノロジーの幸せな結びつきを加速させる、エンターテック・アクセラレーター。エンタテインメントやテクノロジー領域のコンサルティング、メディア運営、カンファレンス主催、海外展開支援などを行っている。
(構成 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2020年5月号の記事を再構成]
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