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「健康的」な建物を目指して

オフィス内ではデスクの配置に加え、人が移動するスペースについても注意が必要だ。「エレベーターを利用する時にはどうすればいいでしょう? 廊下や通路では?」と、建築事務所パーキン+ウィルで商業デザインおよび企業デザインを行うジョー・コネル氏は尋ねる。

こうした接触の機会を減らすため、雇用者側は時差出勤、往来の制限、エレベーターの待ち場所、体温チェックなどの対策を検討している。ウィーワークでは、提供するコワーキングスペースのラウンジや会議室内の席数を減らし、廊下を一方通行にしたうえ、60万人という顧客に対して距離に関するガイドラインを示す予定だと言う。また、サルバ氏によれば、顧客であるウーバーはサンフランシスコ市内のオフィスでの勤務を再開させる予定だが、1日のうちに建物に入れるのは従業員全体の20%のみとする予定だという。

多くの専門家が、この新型コロナウイルスのパンデミックを機に、オフィス環境全体が従業員にとってより健康的なものになることを期待している。結局のところ、新型コロナウイルスのアウトトブレイクによる自宅隔離生活が始まる前から、ほとんどの米国人は自分たちの時間の90%を屋内で過ごしていたのだ。「私たちはインドアな動物なのです」と、ハーバード大学の「健康建築物プログラム」を率いるジョー・アレン氏は話す。

企業が従業員の健康のためにできることとして、掃除の頻度を上げる、ウイルスの不活性化が期待される紫外線照射機器を使用する、エアフィルターを設置する、自動ドアや自動水栓付きの洗面台など非接触テクノロジーを取り入れることなどがあげられる。アレン氏によれば、人が本当に生産的であるためにはさらに、十分なパーソナルスペース、自然光、そして集中できるくらいの静かさが必要だという。

パンデミックが落ち着いても、多くの企業にはオフィスを改装する資金的余裕がないため、オフィス勤務そのものを控えさせる企業も出てくるだろう。米シカゴ大学の調査によれば、米国の37%の仕事はリモートで行うことができる可能性がある。

それでも、実際に集まったり共同で仕事をしたりするための中心的な場所は、ほとんどのビジネスにおいて必要となるだろう。また、オープンオフィスが存続するとしても、イワシの缶詰のように人が詰め込まれたスペースには厳しい目が向けられるはずだ。従業員にとっては、スペースが増え自由度が高まるようなレイアウトの変更につながるかもしれない。

「人々が建物に対して期待するものは変わっていくでしょう」とアレン氏は言う。「次にオフィスへ行った時には、私たちのオフィスに対する考え方は変わっているはずです」

(文 SARAH GIBBENS、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年5月10日付の記事を再構成]

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