人間に遭わない… 福島立入禁止区域で増える動物たち

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/5/30

たとえば、米サウスカロライナ大学の生物学者ティム・ムソー氏によると、生殖障害や突然変異率の上昇が、鳥類やげっ歯類に見られるという。ハタネズミに関する研究では、こうした突然変異が親から子に遺伝することがあると示された。

フランス、パリ南大学の研究員アンダース・モラー氏は、「チェルノブイリで特定の鳥や特定の哺乳類が増えているかもしれませんが、健康状態が良くないこともわかっているのです」と話す。

放射性物質、特にチェルノブイリでも福島でも検出された元素であるセシウム137から出る放射線は、数十メートル離れていても届く可能性があり、体組織やDNAが損傷を受ける。

いずれにせよ、人が消え、猟をしなくなった結果、ハイイロオオカミやタヌキ、アナグマをはじめ、かつては存在しなかったか希少だった多くの種が、現在のチェルノブイリには相当数生息している。

複数の証拠が「チェルノブイリの立入禁止区域に中型から大型の哺乳類が多数生息していることを示しています」とビーズリー氏は語る。

朝鮮半島の非武装地帯でも

人が消えて野生生物が増えたもう1つの地は、朝鮮半島の非武装地帯(DMZ)だ。

朝鮮戦争の休戦後、北朝鮮と韓国は2国間にDMZとして知られる無人地帯を設けた。今日でもかつての村跡があり、軍用品、兵士の遺骨、地雷が散らばっている。

緊迫した状態が、この幅4キロの境界域で70年近くも続いてきた。そのおかげで、絶滅危惧種のタンチョウ、ツキノワグマ、コウライアカギツネ、ヤギに似たオナガゴーラル(チョウセンカモシカ)など、希少動物が繁栄してきた。

自然保護活動家は、DMZ自体を東アジアの野生動物にとって最も重要な場所の1つだと認識している。

今回の研究と現在のパンデミックからの教訓として、「私たちは問題を特定できました。問題は私たち自身だったのです」とヒントン氏は語る。

「これがきっかけとなり、地球は1つしかなく、取り返しのつかないことをしてはならないと人々が気づくことを私は願っています」

(文 DOUGLAS MAIN、訳=牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年5月8日付]

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