コロナで収入減 家計の危機は給付金や手当でしのぐ
人生100年時代のキャリアとワークスタイル
新型コロナウイルス感染症拡大によって、私たちの暮らしは大きく変わりました。勤務先の休業による手取り額の減少や受注減、失業など、家計への影響は膨らむばかり。生活に困ったときに備えて、公的な給付金支援策について確認しておきましょう。各種休業手当のほか、子どもの世話を行うために契約した仕事ができなくなった場合の「小学校休業等対応支援金」や新型コロナで収入が減少したフリーランスなど個人事業者が受け取ることができる「持続化給付金」についても人事労務コンサルタントで社会保険労務士の佐佐木由美子氏が解説します。
10万円の給付金がようやくスタート
国民から注目されていた給付金。当初は生活に困っている世帯に対して30万円を給付する話が出ていましたが、その対象者をめぐり議論百出。批判も相次ぎ、結果として迅速かつ的確に家計への支援を行うため、1人当たり10万円の「特別定額給付金」が支給されることになりました。
一部の自治体ではすでに給付が始まっていますが、人口が多い自治体では6月以降にずれ込む見込みです。対象者は、2020年4月27日時点で住民基本台帳に記録されていた人で、外国人も受け取れます。ただし、海外駐在などで住民票が日本になければ、日本人でも受け取ることはできません。
申請方法は、世帯主が家族分をまとめてオンラインまたは郵送で行います。郵送申請の場合は、各自治体における受け付け開始日から3カ月以内が受付期限。オンライン申請の場合、マイナンバーカードがあることに加えて、暗証番号(パスワード)が必要となりますが、これを忘れてしまったときは、パスワードの再設定を行わなければならず、そのために自治体の窓口が混み合っているところもある、という何とも皮肉な状況となっています。
会社判断の休業には「休業手当」が出る
新型コロナウイルスによって、仕事が休みになってしまった方は大勢いるのではないでしょうか。会社の判断で休業することになった場合、法律では労働者に「休業手当」を支払うことが義務付けられています。アルバイトやパートタイマーも当然対象となります。最近よく耳にするのは、こうした休業手当が支払われないということ。特に、非正規労働者に対して未払いとなっているケースが多いようで、深刻な問題です。
「緊急事態宣言による協力依頼や要請などを受けて営業を自粛するのは、会社のせいではない(=だから休業手当は支払わない、支払えない)」という声もあります。しかし、こうした場合でも一律に休業手当の支払い義務がなくなるものではありません。
労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありませんが、不可抗力による休業と言えるためには、(1)その原因が事業の外部より発生した事故であること(2)事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること、のいずれも満たす必要があります。たとえば、在宅勤務の検討や他にできる業務を行ってもらうなど、使用者として休業を回避するために具体的努力を最大限に尽くしたかどうかが判断要素となります。
休業手当は、仕事を休んだ日について平均賃金の6割以上と定められていますが、会社によって全額補償されることもあります。平均賃金の計算方法は、休業日以前(直前の給与締め切り日から遡って)3カ月間に支払われた給与の総額をその期間の歴日数(総日数)で除した金額。その6割以上が休業手当となります(時給制などのパートタイマーは最低保障あり)。
なお、一時的に勤務先が休業となって仕事を失った場合は、「失業手当」を支払う特例措置の検討が進められています。東日本大震災の際には、実際に労働者が離職していなくても「みなし失業」として特例措置が実施されました。本来であれば、休業手当が支払われるべきですが、対応の遅れが見られる状況の中、労働者に直接支給されるみなし失業手当へのニーズは高まっています。
仕事を失ったときに申請できる「失業手当」
退職を余儀なくされた場合、失業手当や失業保険と呼ばれる「基本手当」があります。対象となる人は、雇用保険に加入していた一般被保険者で、会社都合の退職の場合少なくとも雇用保険の被保険者であった期間が退職前1年間に通算して6カ月以上(自己都合退職の場合は退職前2年間に通算して12カ月以上)あることが必要です。この被保険者であった期間とは、退職日から1カ月ごとに区切った期間に給与の支払い基礎となった日数が11日以上ある月を1カ月として数えます。
失業給付を受けることができる給付日数は、年齢や雇用保険の被保険者であった期間、離職理由などによって、90~360日の間でそれぞれ決められます。会社の倒産や解雇など、会社都合の場合は、自己都合で退職するよりも優遇された条件で給付を受けられることができます。
この失業給付は、退職日の直前6カ月の平均給与(賞与は除く)をもとに算定されますが、年齢区分ごとに上限額が定められており、2020年4月1日時点では、30歳未満が6815円、30歳以上45歳未満が7570円、45歳以上60歳未満が8330円、60歳以上65歳未満が7150円となっています。
なお、65歳以上は上限が6815円となり、「高年齢求職者給付金」という名称で、被保険者期間が通算して6カ月以上1年未満であれば30日分、1年以上は50日分を一括で受け取ることができます。
コロナに感染したときは「傷病手当金」
もし新型コロナウイルス感染症にかかってしまったり、発熱などの症状で感染が疑われたりして仕事を休む場合に、健康保険に加入している会社員や公務員は、「傷病手当金」を申請することができます。ポイントは、休業が3日間(公休日も含む)続いている点で、実際にお金がもらえるのは休業4日目から。
給付額は、およそ受給前1年間の平均標準報酬日額の3分の2相当額。ただし、会社から給与の一部が支払われる場合は、その分傷病手当金が減額されます。申請には、原則として医師の証明などを受けて、会社を通じて健康保険組合に申請します。
国民健康保険においても、給与を受けて働く人が新型コロナウイルスに感染した場合などに、傷病手当金を受け取れる場合があります。厚労省によると、新型コロナウイルスに関しては、4月初めの時点で6割ほどの自治体が傷病手当金を検討。すでに横浜市では、休業4日目が2020年1月1日から9月30日までの間にある場合など、コロナ対応に限定して申請を受け付けています。今後もその動きは各自治体に広がっていくものと思います。
収入が半減したフリーランスも「持続化給付金」の対象に
コロナへの対応として子どもが通う小学校などが休みとなり、子どもの世話を行うために契約した仕事ができなくなった個人事業主やフリーランスの方について、1日当たり4100円の「小学校休業等対応支援金」を申請することができます。小学校ばかりでなく、放課後児童クラブや幼稚園、保育所、認定こども園、認可外保育施設など幅広い施設が対象となっています。
2020年2月27日から6月30日までの休校などが対象で、申請期間は同年9月30日まで。休校にならなくとも、保育所などから可能な範囲で利用を控えるように依頼があった場合も認められます。保護者の自主的な判断で休ませた場合は対象外ですが、小学校などがコロナに関連して出席しなくてもよいと認めた場合は対象になります。
また、5月8日から支給が始まった「持続化給付金」もフリーランスにとって見逃せません。持続化給付金は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年1月以降、前年同月比で50%以上売り上げが減少している個人事業者や中小法人などが対象です。
法人は最大200万円、フリーランスなど個人事業者は最大100万円。ただし、昨年1年分の売り上げからの減少分を上限とします。申請期間は2021年1月15日まで。今年1月から12月までの月で売り上げが前年同月と比べて半減する月があれば給付の対象となるため、今後の動向もみて検討したいところです。
このように、新型コロナウイルス感染症への対応として、様々な支援策が打ち出されています。情報は随時更新されていますので、最新の内容を確認して、利用できるものがあれば積極的に活用し、この困難を乗り越えていきたいものです。
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。中央大学大学院戦略経営研究科修了(MBA)。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所などに勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、働く女性のための情報共有サロン「サロン・ド・グレース」を主宰。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」をはじめ、新聞・雑誌などで活躍。
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