「生ごみがすごいな」。川本さんらとカンボジアを訪れた際、悪臭を放つごみの山に驚いた。途上国は衛生問題が深刻で、感染症発生の遠因にもなっている。2人は工学部や法学部の同級生と4人で途上国の環境問題を解決するプロジェクトを始動。生ごみの分解能力が高いハエの幼虫に着目したユニークな研究に取り組んだ。

分野を超えた仲間との学び

英語の論文を読みあさり、ハエの一種、アメリカミズアブが特に優れ、成虫に口がないため病原菌を媒介しないことを突き止めた。この幼虫を使った生ごみ分解の小型装置「グラビン」を開発し、世界の学生が競うビジネスコンテスト「Hult Prize(ハルト・プライズ)」に挑んだ。決勝戦には進めなかったが、学内では「東大総長賞」を受賞した。

医学とは直接関係ないプロジェクトだったことが大事な経験となった。東大の1~2年生は文系・理系を問わず全員が教養学部に所属し、数学や哲学など幅広い分野を学ぶ。社会課題の解決をめざす課外活動に取り組みやすく、学生起業家も増えている。「深い考えを持ち、大きな夢を持つ様々な分野の仲間と関係を深められた」と高橋さんは振り返る。

教養学部での学びがもたらしたものは、ほかにもある。「改めて数学にのめりこみ、情報科学を学ぶためのケンブリッジ留学につながった」。コンピューターサイエンス分野でも世界をリードし、周辺に「シリコンフェン」と呼ばれるハイテク企業の集積地を形成しているケンブリッジの門を再びたたいた。「1年程度の留学のつもりが、情報科学が面白くなり、ちょっと長引いた」。そこでコロナ禍に見舞われた。

情報科学を学ぶのは、医学への興味が薄れたからではない。「AIなど最先端技術を駆使して、生命の謎を解きたいから」。理化学研究所の清田純リーダーが率いる「健康医療データAI解析標準化ユニット」とともに、ケンブリッジ幹細胞研究所のプロジェクトに参加。免疫細胞を研究する高橋さんは「発生学などの実験からものすごい量のデータを収集できるようになったが、既存の方法で解析するのは困難。AIなどを活用して、新たな知見を生み出したい」と意気込む。

「医学の基礎研究の発展に尽くしたい」と語る高橋さん

高橋さんは、川本さんとともに孫正義育英財団のメンバーにも選ばれている。ソフトバンクグループ会長兼社長の孫さんが16年に設立し、支援対象となっているのは現在187人。「子どもから20代まで多彩な人材がいて刺激になるし、ロンドンにも拠点がある」のが大きなメリットだ。

天文、物理、数学からビジネスまで多彩な能力を発揮した偉人、アイザック・ニュートンはケンブリッジ出身。1209年創立の同校は、感染症であるペスト(黒死病)の魔の手にくり返し襲われ、長期の休校を余儀なくされた時代もある。ニュートンによる1665年の万有引力の発見も、ペストの大流行がきっかけといわれる。大学が閉鎖され、故郷で思索にふける時間を得たことが、世界史を変えた。

19世紀末にペスト菌を発見した研究者の1人、北里柴三郎は、東大医学部で学んだ。留学先のドイツでコッホに師事して頭角を現し、感染症予防や治療に大きく貢献した人物だ。

「新たな感染症はまだまだ襲ってくるかもしれない。多くの人々を救うため、医学の基礎研究の発展に尽くす、そんな研究者になりたい」。コロナ禍を目の当たりにした若者の胸には今、強い思いが宿っている。

(代慶達也)

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