「ズーム疲れ」はなぜ? 大きな負担、脳にかかる

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/5/23

ビデオ会議はなぜ疲れるのか

人間は、何も話していないときにも情報のやりとりを行っている。直接の対話においては、脳は話されている言葉に注意を払うと同時に、非言語的な手がかりからもさまざまな意味を読み取っている。たとえば、相手が自分にまっすぐ向いているのか、それとも少し斜めなのか、話をしながらそわそわと体を動かしているのか、話をさえぎろうとすばやく息を吸い込んだのか、といったことだ。

(PHOTOGRAPH BY BENJAMIN RASMUSSEN)

そうした手がかりは、話し手が何を伝えようとしているのか、また聞き手にはどんな反応が期待されているのかといった全体像を把握するうえで役に立つ。人間は社会的動物として進化してきたため、大半の人はそうした手がかりの意味を自然に読み取り、感情的な親密さの基礎を築くことができる。

一方、ビデオ会議では、言葉に対して継続的に強い注意を向けることが要求される。たとえば、ある人の肩から上だけしか画面に映っていなければ、その人の手の仕草やボディランゲージを見る機会は失われる。またビデオの画質が低い場合は、ちょっとした表情から何かを読み取ることは不可能だ。

「そうした非言語的な手がかりに強く依存している人にとって、それが見られないというのは大きな消耗につながります」と、フランクリン氏は言う。

ギャラリービューによる消耗はさらに深刻だ。ギャラリービューでは会議の参加者全員が同じ大きさで画面に映し出されるため、脳はいやおうなしに、たくさんの人の表情をいっぺんに解読することになる。その結果、だれからも意味のある内容を読み取れないこともある。

(PHOTOGRAPH BY BENJAMIN RASMUSSEN)
(PHOTOGRAPH BY BENJAMIN RASMUSSEN)

「現代人は特定のことに完全に集中することがなく、常にいくつもの活動に従事しています」と、フランクリン氏は言う。心理学者はこうした状態を「継続的な注意力の断片化」と呼んでおり、これはバーチャルな環境にも、リアルな環境にも当てはまる。グループでのビデオチャットの多くが失敗に終わるのは、たとえば料理と読書を同時に行うような、非常に難しいマルチタスクを同時にこなそうとするからだ。

また、グループでのビデオチャットでは共同作業性は低下し、一度に話すのは2人だけで、残りの人たちがそれを聞いているという状態になりやすい。すべての声が参加者全員に届くため、同時に別の会話をすることができないからだ。そして話をしているだれかを注視すると、声を出さない参加者がどんな態度を取っているかは把握しにくい。一方、通常の会議であれば、そうした情報を周辺視野にとらえることができるだろう。

人によっては、長時間にわたって注意力が分散された状態が続くと、何もやり終えていないのに消耗したという奇妙な感覚を覚えることもある。脳が、非言語的な手がかりを求めて過剰に集中し、慣れない刺激を過度に受けることによって、くたくたに疲れてしまうのだ。

昔ながらの電話の方が脳への負担が少ない理由はそこにあるのかもしれないと、フランクリン氏は言う。なぜなら電話が果たす役割は、一人の声だけを届けるというささやかなものだからだ。

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