脊椎の謎
ヨロイジネズミが異常な強度と柔軟性を兼ね備えた脊椎を進化させた理由は、誰にもわからない。
一説には、アフリカ中央部の森で、ヤシの葉の中にいるジューシーな幼虫を捕まえられるよう適応した結果だという。一理ある、とスミス氏は言う。しかし、ヨロイジネズミが実際にそのような行動をとったという記録は1つもない、と同氏は付け加える。
ヨロイジネズミを自然の生息地で研究することは難しい。小さくて臆病であるうえ、生息地の大部分が、数十年にわたり武力衝突に苦しんできたコンゴ民主共和国内にあるからだ。

スミス氏は、フィールド自然史博物館で、ヨロイジネズミ全2種の標本16体のほか、比較のために、同じような大きさのジネズミ属の1種の標本4体を調査した。X線撮影には、通常は小さな化石の研究に使用される米シカゴ大学の装置を用いた。
ヨロイジネズミの超強力な脊椎が果たす役割を、野生環境で調べられれば理想的だが、それができなければ、ヨロイジネズミを飼育し、その椎骨を野生の標本と比較する方法が考えられると、米ロングアイランド大学獣医学部の解剖学者メイア・バラク氏は言う。なお、同氏はスミス氏の研究には関わっていない。
というのも、骨は大きな力を繰り返し加えられると、より多くの骨を作ろうとするからだ。人がベッドで長期間寝たきりになると骨量が減るように、飼育下のヨロイジネズミの骨にも同様の変化が起こり、野生のヨロイジネズミの脊椎の仕組みや進化の謎に関する手がかりが得られるかもしれない。
「わかりやすい例は、プロテニス選手の左右の手の違いです」とバラク氏はメールでの取材に答えた。「利き手には強い力が繰り返しかかるため、橈骨(とうこつ、前腕の親指側にある長い骨)の皮質がはるかに厚くなっています」