新iPhone SEはどれだけお得? ライバルと比べてみた
佐野正弘のモバイル最前線
4インチディスプレー搭載のコンパクトなサイズとリーズナブルな価格で、長きにわたって人気を博してきた米アップルの「iPhone SE」。そのiPhone SEの後継機となる第2世代の「新iPhone SE」がついに登場し、4月24日以降、順次出荷が始まった。iPhone 8と同じサイズ感ながら性能が大幅に向上し、なおかつストレージが64ギガ(ギガは10億)バイト(GB)のモデルで4万4800円というiPhoneシリーズの中では非常にリーズナブルな価格であったことから大きな注目を集めている。
だが最近は新iPhone SEと同程度、もしくはそれより安価なAndroidスマートフォンも珍しくない。それらの低価格のスマホと比べたとき、新iPhone SEはどれくらいお買い得感があるのかを探ってみよう。
新iPhone SEはコンパクトさを重視
ここでは比較対象として、新iPhone SEに近い4万円台での販売が予定されているソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia 10 II」(5月下旬以降発売予定)と、それより安い3万円台で販売されているシャープの「AQUOS sense3」を取り上げる。
まずサイズだが、新iPhone SEは4.7インチディスプレーを搭載しているのに対し、AQUOS sense3は5.5インチ、Xperia 10 IIは6インチとより大きなディスプレーを採用している。新iPhone SE以外はいずれもディスプレーが縦長で、縦方向のサイズは大きい。
持ちやすさや操作のしやすさという面では、ディスプレーが小さく、片手で持っても画面上部に親指が届く新iPhone SEに優位性がある。だが映像を視聴したり、ゲームを楽しんだりする上ではディスプレーが大きいライバル2機種の方が有利だ。
最近はスマホでさまざまなコンテンツを楽しむ機会が増え、ディスプレーサイズが大きい機種の人気が高い傾向にある。このため新iPhone SEのように4インチ台のディスプレーを搭載したコンパクトなスマホはほとんど見られなくなってしまった。そうした意味では、新iPhone SEは、実は貴重なモデルともいえる。
本体デザインに関連して生体認証について確認すると、新iPhone SEはiPhone 8と同様、ホームボタンと一体型の指紋センサーによる「Touch ID」を採用している。このため上下のベゼル部分が太く、やや古い印象を与えるのが気になる。
Xperia 10 IIは指紋センサーを右側面の電源キーと兼用にすることで、デザイン面の問題を解消した。AQUOS sense3は新iPhone SEと同様のデザインを採用しているが、指紋センサーが小さいこともあってベゼル部分は狭い。最近はベゼル部分を極限まで減らし、あたかも前面すべてがディスプレーで占められているようなデザインが人気なだけに、3年近く前に発売されたiPhone 8をベースにしている新iPhone SEはやや不利だ。
チップ性能はライバルを圧倒
性能面はどうか。新iPhone SEと他の2機種とではOSが異なるため、ハードウエアの違いが必ずしも性能の違いに直結するとは限らないが、搭載するチップなどである程度、推し量ることはできる。
新iPhone SEは、iPhone 11シリーズと同じチップ「A13 Bionic」を搭載している。このチップは「iPhone 11 Pro」などのハイエンドモデルにも用いられている。Androidスマホの多くが採用しているクアルコム製のチップでは、最新の5Gスマホが採用している「Snapdragon 865」が対抗馬になることから、新iPhone SEは低価格帯のスマホとしては破格の性能を持つことが分かる
一方、Xperia 10 IIが搭載するのはクアルコムの「Snapdragon 665」、AQUOS sense3は同「Snapdragon 630」である。これらはSnapdragon 865より2クラス下の中間価格帯スマホ向けのチップなので、その分性能は落ちる。
そうしたことから、4万円台でハイエンドモデルと同じチップを搭載する新iPhone SEの性能は、かなり高いと推察できる。特に今後はゲームだけでなく、拡張現実(AR)などより負荷の大きいアプリが増えることから、高い性能を備える新iPhone SEは長く使えるだろう。
カメラの質は高いが撮影シーンに弱み
では、多くの人が日常的に利用するカメラの性能はどうか。新iPhone SEのメインカメラは画素数が1200万画素、レンズの明るさを示す開放F値が1.8のカメラを1つだけ搭載するシングルカメラ構造で、iPhone 8とまったく同じ仕様だ。
だが新iPhone SEは新型チップの性能を生かしたソフトウエア処理によるカメラ機能の強化がなされている。iPhone 8には搭載されていない、人物撮影時に背景をぼかした「ポートレートモード」や、逆光のシーンなどでも被写体が暗くなったり、白飛びしたりしない「スマートHDR」に対応したことで、より幅広い撮影シーンに対応できるようになっている。
シングルカメラの新iPhone SEに対して、AQUOS sense3のメインカメラは1200万画素・F値2.0の標準カメラと、1200万画素・F値2.4の広角カメラのデュアルカメラ構造。またXperia 10 IIは、1200万画素・F値2.0の標準カメラと、800万画素・F値2.2の超広角カメラ、800万画素・F値2.4で光学2倍ズーム相当の望遠カメラを搭載した、トリプルカメラ構造となっている。
新iPhone SEは搭載するカメラの数が少ないことから、メインカメラでの撮影シーンの幅広さという点ではライバル2機種に譲ることは確かだ。だがポートレート撮影への対応など、新型チップの搭載によってシングルカメラの弱点を補い、かつF値が小さく暗所での撮影が得意なことから、質の面では有利といえそうだ。
ちなみにフロントカメラは、新iPhone SEが700万画素・F値2.2であるのに対し、AQUOS sense3が800万画素・F値2.2、Xperia 10 IIが800万画素・F値2.0と、こちらは性能面だけを見れば大きな差はない。
差があるのは主にソフトウエア処理の部分。新iPhone SEはフロントカメラにもポートレートモードやスマートHDRが適用される。ライバル2機種は目や肌、顔の輪郭などを補正する、いわゆる「ビューティー機能」を搭載している。
操作性重視で長く利用するならお買い得
これらの比較結果を踏まえ、どのような人が新iPhone SEを選ぶとお得で高い満足度が得られるだろう。やはり新iPhone SEは本体がコンパクトで操作がしやすく、長期間買い替えなくても満足できる性能を備える。SNS(交流サイト)などによるコミュニケーション、あるいはキャッシュレス決済など「日常使い」に重きを置き、なおかつ2年以上使うことを前提とする人にとっては非常にお得なモデルといえそうだ。
一方、新iPhone SEはディスプレーサイズが小さく、カメラの数が少ないことも事実。映像やゲームなどのコンテンツを楽しむことが多かったり、カメラ撮影などにこだわりを持ったりする人は、他のスマホを選んだ方が満足度が高いかもしれない。
スマホに求める機能によって購入後の満足感は大きく変わってくる。新iPhone SE以外にも低価格スマホの品ぞろえは着実に増えている。スマホを買い替える際はより多くの端末を比べてみるのがよいだろう。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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