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有名店のネルフィルターの数々。右からカフェ・ド・ランブル、珈琲美美、もか、ひとつおいてダフニ

「ねるっこ」使えばプロの味が簡単に

多くのプロはネルフィルターの形状や素材にこだわり、自分流の道具を持つ。桜井さんが所有する古今東西の有名店のフィルターを拝見させてもらうと、柄の長さやフィルターの半円の深さなど様々。それぞれの店主の「理屈」を聞いてみたくなる。

同じネルドリップでも一風変わった器具がある。富士珈機(大阪市)が開発した「ネルブリューワー ねるっこ」だ。監修したのが福岡市の有名店「珈琲美美(びみ)」の店主だった森光宗男さん。やぐらにセットしたドリッパーにお湯を入れるだけという簡便な製品を、ネルのハンドドリップにこだわった店主が発案したのだ。一般の人が「ハードルが高い」と思いがちなネルドリップを、より身近なものにしたいという「コーヒー愛」ゆえだろう。

ネルの素材は蒸らしと抽出液の流下に適したヘンプコットンを採用し、ドリッパー下部のノズルから点滴されたお湯が満遍なく粉に注がれる繊細な構造は、金属加工技術に秀でた新潟県燕三条の工場が具現化した。日本ネルドリップ珈琲普及協会の代表理事、繁田武之さんは「邪道だ、という人もいるけれど、味はハンドドリップと比べても遜色ない」と話す。お湯がやや冷めやすいのが課題で、価格も約4万円と一般家庭にとっては少々高めだが、関心を寄せるネル愛好家もいるだろう。

素人がネルを敬遠する最大のポイントがフィルターの手入れ・保管の手間だ。一般に「使用後はよく水洗い・煮沸し、冷水を入れた蓋付き容器に入れて冷蔵庫に保管」「容器の中の水は毎日取りかえるのが望ましい」といわれる。チャック付きビニール袋に水と入れて冷凍すれば、解凍の時間は必要だが、水を毎日取りかえる手間は省ける。繁田さんは重曹での洗浄など、乾燥状態での保管を可能にする方法を模索中だ。いずれにせよ、使用を重ねるうちにネルは目詰まりを起こす。桜井さんは抽出時間が長くなり味が濃くなった時が替え時と話す。一般には50~60回の使用が交換の目安だ。

コーヒーはお酒と違い、消費者自身が焙煎、豆の粉砕(グラインド)、さらには抽出と、味と香りを決定する様々なプロセスの当事者になれる。抽出作業ひとつとっても、その方法や豆の種類、ロースト、メッシュ、湯温など様々な条件の組み合わせで味わいは微妙に変わる。そのなかから自分なりの最適解を見つけるプロセスもまた面白い。

桜井さんは店主というよりも、一生涯「加工人」という意識で仕事をしている。「味は一代限り」と達観し、自分の技術は未完成なので「お弟子さんなんてとても無理」と笑う。心底納得できる味の追求はまだ途上なのだという。そんな桜井さんが示したメソッドを足がかりに、ネルドリップの解を探す知的な旅に出てみるのもいい。

(名出晃)

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