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ネルフィルターは寸胴のガラスビーカーにセット。蒸らしの1投目のお湯は粉の上にそっと置くようにする

こうすれば、誰でもおいしく淹れられる!

桜井さんは襟立さんから焙煎(ばいせん)や抽出の指導を受け、「もともと好きじゃなかった」コーヒーに開眼する。こと細かに技術を伝授されたわけではなく、「私は弟子とはいえないの」と振り返るが、襟立さんが75年に亡くなる直前まで「荷物持ちとして」随伴し、襟立さんが焙煎して淹れたコーヒーを飲み、襟立さんの数々の金言を書き留め、味の哲学を吸収した。桜井さんの味覚の鋭さについては、襟立さんをはじめ多くの同業者が一目を置いた。

東京・田町にダフニを開いたのは96年。モッコウバラが入り口を彩るこぢんまりした店には、全国からコーヒー愛好家が豆を買いに訪れる。「私は決してネルドリップは上手じゃない」と桜井さん謙遜する。「ただ、誰でもこうすれば安定した味で淹れられますよ、というやり方で淹れている」。まさに素人が学ぶには格好のお手本だ。

大概のコーヒー関連の本やサイトにはネルドリップの解説が書かれている。新品のフィルターはコーヒー粉を入れた鍋で10~20分煮沸して糊(のり)を落とす、口の細いドリップケトル(ポット)でお湯を注ぐ、ネル自体にお湯をかけない、といった手順や注意事項はほぼ同じで、ペーパードリップと共通する点もある。

ドリップに際し、桜井さんが重ねて強調したのは「温度」だ。コーヒーの甘味とコクは、お湯が浸透した粉の温度が50~60℃になると十分に引き出される。ゆえに抽出作業の最初から最後まで、ネル内部の粉全体がこの温度を下回らないよう注意を払う。あらかじめネルも粉も常温に戻しておく。家庭で淹れる時、ドリップケトルに人数分のお湯しかいれない人がいるが、湯量が少ないと冷めやすい。だからできるだけ多くのお湯を入れる。

桜井さんは柄付きのネルフィルターを寸胴のガラス製ビーカーにセットする。これはネルが外気に触れて粉の温度が不安定にならないようにするためだ。フィルターを手に持ち、微妙に動かしながら抽出するプロも多いが、「素人はまねしちゃいけません」。フィルターを動かせば中の粉が不安定になる恐れがあるし、手に持てばネルは外気に触れる。「プロはそれを全部考慮したうえで、ああやって淹れているはず。ビーカーに置けば抽出は安定するし、ガラスは味の変化が少ない」

実は1人前よりも、多くの人数分を淹れるほうが味は安定しやすい。粉の量が増えれば、ネル内部の温度が含み熱のおかげで高く保てるからだ。3人前(300cc)ならば粉は30グラム、蒸らしは45秒、抽出時間は3分が目安だ。

ネルドリップしたムニール・モカ。滑らかな舌触りで、複雑な香りが口の中に広がる

今回淹れたムニール・モカ(イエメン)は深煎りで、優しい舌触りとともに豊かな香りとコクが堪能できた。桜井さんによればネルドリップは豆の種類や煎りの深さ(ロースト)を特に選ばないが、一番無難なのは中煎りだ。挽(ひ)いた粉の大きさ(メッシュ)はグラニュー糖よりやや粗めの中挽きでいいという。

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