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在宅でとろり滑らかネルドリップ 達人が淹れ方指南

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NIKKEI STYLE

コーヒーのある空間には語らいや思索が生まれる。新型コロナウイルスの混乱を経て、人と人をつなぎ、ひとときの安らぎをもたらすこの飲み物の存在価値が、改めて見直されるかもしれない。コーヒーにゆかりのある人々が語る、香り豊かな一杯の魅力や楽しみ方、独特の世界観を手掛かりに、新たな文化やビジネスが芽吹く可能性を探ってみたい。

◇    ◇    ◇

「ネルドリップ」と聞いてコーヒー愛好家はどんなイメージを思い浮かべるだろう。昭和の喫茶店? こわい店主の職人技? 面倒くさくて難しい?

ネル(フランネルの略)と呼ばれる布のフィルターでコーヒーを淹(い)れるネルドリップは、粉に含まれるうま味を余すところなく引き出し、口当たりはとろりと滑らかで、深いコクが味わえる。「最高の抽出方法」と断言する熱烈なファンも多く、名だたる喫茶店主たちがドリップの技を磨いてきた。一方、紙のフィルターを使うペーパードリップなどに比べて手間がかかるうえ、技術的なハードルが高い印象から「自分で淹れるのはちょっと……」と素人には敬遠されがちだ。

通販では千円未満のネルフィルターも取り扱っている。新型コロナ対策で喫茶スペースの営業自粛が広がるなか、自宅用のコーヒー豆の販売は好調という店もある。コーヒーに興味がある人ならば、在宅している時間を利用してネルドリップにトライしてみるのもいい。そこで著名なコーヒー豆専門店「ダフニ」(東京・港)の店主、桜井美佐子さんに、初心者でも安定して抽出できるコツを動画で指南してもらった。今回の抽出量は1人前(100cc)。お湯は90℃以上、蒸らしは20秒程度、抽出時間は2分が目安だ。

桜井さんは昭和17年(1942年)生まれ。OL生活を経て30歳で入社したコーヒーチェーンの蘭館珈琲ハウスで、伝説的なコーヒーの職人と巡り合う。戦後に開業した大阪の喫茶店「リヒト」や「なんち」のマスターとして知られた襟立博保(えりたて・ひろやす)さんだ。やはり戦後に東京・銀座で「カフェ・ド・ランブル」を開いた関口一郎さんと並ぶ業界のカリスマ的存在で、蘭館珈琲ハウスの創業期に顧問をつとめた。

こうすれば、誰でもおいしく淹れられる!

桜井さんは襟立さんから焙煎(ばいせん)や抽出の指導を受け、「もともと好きじゃなかった」コーヒーに開眼する。こと細かに技術を伝授されたわけではなく、「私は弟子とはいえないの」と振り返るが、襟立さんが75年に亡くなる直前まで「荷物持ちとして」随伴し、襟立さんが焙煎して淹れたコーヒーを飲み、襟立さんの数々の金言を書き留め、味の哲学を吸収した。桜井さんの味覚の鋭さについては、襟立さんをはじめ多くの同業者が一目を置いた。

東京・田町にダフニを開いたのは96年。モッコウバラが入り口を彩るこぢんまりした店には、全国からコーヒー愛好家が豆を買いに訪れる。「私は決してネルドリップは上手じゃない」と桜井さん謙遜する。「ただ、誰でもこうすれば安定した味で淹れられますよ、というやり方で淹れている」。まさに素人が学ぶには格好のお手本だ。

大概のコーヒー関連の本やサイトにはネルドリップの解説が書かれている。新品のフィルターはコーヒー粉を入れた鍋で10~20分煮沸して糊(のり)を落とす、口の細いドリップケトル(ポット)でお湯を注ぐ、ネル自体にお湯をかけない、といった手順や注意事項はほぼ同じで、ペーパードリップと共通する点もある。

ドリップに際し、桜井さんが重ねて強調したのは「温度」だ。コーヒーの甘味とコクは、お湯が浸透した粉の温度が50~60℃になると十分に引き出される。ゆえに抽出作業の最初から最後まで、ネル内部の粉全体がこの温度を下回らないよう注意を払う。あらかじめネルも粉も常温に戻しておく。家庭で淹れる時、ドリップケトルに人数分のお湯しかいれない人がいるが、湯量が少ないと冷めやすい。だからできるだけ多くのお湯を入れる。

桜井さんは柄付きのネルフィルターを寸胴のガラス製ビーカーにセットする。これはネルが外気に触れて粉の温度が不安定にならないようにするためだ。フィルターを手に持ち、微妙に動かしながら抽出するプロも多いが、「素人はまねしちゃいけません」。フィルターを動かせば中の粉が不安定になる恐れがあるし、手に持てばネルは外気に触れる。「プロはそれを全部考慮したうえで、ああやって淹れているはず。ビーカーに置けば抽出は安定するし、ガラスは味の変化が少ない」

実は1人前よりも、多くの人数分を淹れるほうが味は安定しやすい。粉の量が増えれば、ネル内部の温度が含み熱のおかげで高く保てるからだ。3人前(300cc)ならば粉は30グラム、蒸らしは45秒、抽出時間は3分が目安だ。

今回淹れたムニール・モカ(イエメン)は深煎りで、優しい舌触りとともに豊かな香りとコクが堪能できた。桜井さんによればネルドリップは豆の種類や煎りの深さ(ロースト)を特に選ばないが、一番無難なのは中煎りだ。挽(ひ)いた粉の大きさ(メッシュ)はグラニュー糖よりやや粗めの中挽きでいいという。

「ねるっこ」使えばプロの味が簡単に

多くのプロはネルフィルターの形状や素材にこだわり、自分流の道具を持つ。桜井さんが所有する古今東西の有名店のフィルターを拝見させてもらうと、柄の長さやフィルターの半円の深さなど様々。それぞれの店主の「理屈」を聞いてみたくなる。

同じネルドリップでも一風変わった器具がある。富士珈機(大阪市)が開発した「ネルブリューワー ねるっこ」だ。監修したのが福岡市の有名店「珈琲美美(びみ)」の店主だった森光宗男さん。やぐらにセットしたドリッパーにお湯を入れるだけという簡便な製品を、ネルのハンドドリップにこだわった店主が発案したのだ。一般の人が「ハードルが高い」と思いがちなネルドリップを、より身近なものにしたいという「コーヒー愛」ゆえだろう。

ネルの素材は蒸らしと抽出液の流下に適したヘンプコットンを採用し、ドリッパー下部のノズルから点滴されたお湯が満遍なく粉に注がれる繊細な構造は、金属加工技術に秀でた新潟県燕三条の工場が具現化した。日本ネルドリップ珈琲普及協会の代表理事、繁田武之さんは「邪道だ、という人もいるけれど、味はハンドドリップと比べても遜色ない」と話す。お湯がやや冷めやすいのが課題で、価格も約4万円と一般家庭にとっては少々高めだが、関心を寄せるネル愛好家もいるだろう。

素人がネルを敬遠する最大のポイントがフィルターの手入れ・保管の手間だ。一般に「使用後はよく水洗い・煮沸し、冷水を入れた蓋付き容器に入れて冷蔵庫に保管」「容器の中の水は毎日取りかえるのが望ましい」といわれる。チャック付きビニール袋に水と入れて冷凍すれば、解凍の時間は必要だが、水を毎日取りかえる手間は省ける。繁田さんは重曹での洗浄など、乾燥状態での保管を可能にする方法を模索中だ。いずれにせよ、使用を重ねるうちにネルは目詰まりを起こす。桜井さんは抽出時間が長くなり味が濃くなった時が替え時と話す。一般には50~60回の使用が交換の目安だ。

コーヒーはお酒と違い、消費者自身が焙煎、豆の粉砕(グラインド)、さらには抽出と、味と香りを決定する様々なプロセスの当事者になれる。抽出作業ひとつとっても、その方法や豆の種類、ロースト、メッシュ、湯温など様々な条件の組み合わせで味わいは微妙に変わる。そのなかから自分なりの最適解を見つけるプロセスもまた面白い。

桜井さんは店主というよりも、一生涯「加工人」という意識で仕事をしている。「味は一代限り」と達観し、自分の技術は未完成なので「お弟子さんなんてとても無理」と笑う。心底納得できる味の追求はまだ途上なのだという。そんな桜井さんが示したメソッドを足がかりに、ネルドリップの解を探す知的な旅に出てみるのもいい。

(名出晃)

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