コロナで無観客のeスポーツイベント VRで来場1万人
国内最大級のeスポーツイベント「RAGE(レイジ)」が、仮想現実(VR)で観戦やイベント体験ができるシステム「V-RAGE」を発表した。3月に東京・渋谷のイベント会場で行われた無観客のeスポーツ大会を同システムで配信。のべ1万人超がスマートフォンやパソコンで視聴した。
開催されたのは、「RAGE Shadowverse 2020 Spring GRAND FINALS powered by SHARP」。サイバーエージェント傘下のCygames(東京・渋谷)が運営する対戦型オンライントレーディングカードゲーム『Shadowverse』の大会の決勝トーナメントだ。通常は会場に観客を入れてのリアルイベントと、ゲームに特化した動画配信サイト「OPENREC.tv」でのライブ配信をしているが、今回は無観客試合とし、OPENREC.tvとV-RAGEで配信した。
V-RAGEは、スマートフォン、パソコン、Oculus RiftシリーズやHTC VIVEシリーズといったVRヘッドマウントディスプレーでアプリを立ち上げ視聴する仕組み。ユニークなのは、バーチャル空間に会場外側も再現したことだ。アプリを立ち上げて最初に現れるのは会場の入り口。視聴者はそこから入場し、ロビーを通って観戦の場となるスタジアムへ進む。
スタジアムの中心には円形ステージ、その上には大型モニターが設置されており、円形ステージではトークイベントが、大型モニターでは試合のライブ配信映像が見られる。感覚としてはパブリックビューイング会場に近い。イベントが盛り上がると、参加者がペンライトを振ったり拍手をしたりコメントを入力したりできる機能もあった。
当日はV-RAGEのこけら落としということで、試合の合間には「M-1グランプリ2019」チャンピオンの漫才コンビ・ミルクボーイが巨大なアバターになって円形ステージに登場し、漫才を披露した。このときもたくさんの参加者がペンライトを振ったり拍手を送ったりしていた。
当初の予定を新型コロナで前倒し
RAGEの総合プロデューサーを務めるCyberZ(東京・渋谷)の大友真吾氏によると、当初、V-RAGEは4月ごろの実施を予定していた。RAGEのイベントはOPENREC.tvでも配信しているが、「ゲームをプレーするもののeスポーツの試合はあまり見ないというライト層がゲーム感覚で参加できる仕組みとして企画した」という。だが今回、新型コロナウイルスに伴う自粛措置で「RAGE Shadowverse 2020 Spring GRAND FINALS powered by SHARP」が無観客試合になったことから、予定を前倒ししてV-RAGEをスタートすることになった。
V-RAGEのベースになっているのは、クラスター(東京・品川)が開発・運営するバーチャルSNSプラットフォーム「cluster」だ。アバターを使ってバーチャル空間でイベントを開催、参加できるサービスで、VTuberのファン交流会や研究発表会、仲間内でのちょっとした集まりなど大小さまざまなイベントに利用されている。V-RAGEはこれをRAGE用にカスタマイズ。「RAGEの世界観を表現できるように細部まで作りこんだ」(クラスター執行役員・エンタープライズ事業部部長の成田暁彦氏)。
バーチャルでのRAGEは初めての取り組みだったが、当日はのべ1万人強が参加。コメントやSNSでの反応を見ると、ゲームの展開や選手の表情はOPENREC.tvで見つつ、V-RAGEで会場やイベント自体の雰囲気を楽しむユーザーも多かったようだ。
物販や協賛企業ブースなども組み込める
今後はV-RAGEならではの特徴を生かしたイベントにすべく機能を強化していく。「まずは夏をめどにバージョンアップしたい」(大友氏)。現在1種類しかないアバターの種類を増やしたり、RAGEならではの演出要素を追加したりする予定だ。「今回、ミルクボーイを巨大化させたように、バーチャルだからこそできることはたくさんある。花火を打ち上げてもいい」と成田氏は話す。
さらに、物販や配送の機能との連携も視野に入れている。例えば、イベントやチームのオフィシャルウエアをV-RAGEで販売。購入した参加者がV-RAGE内でアバターにそれを着せ、後日、郵送で実物を受け取るといったことができるようになる。
大会に協賛として参加する企業のプロモーション施策も幅が広がりそうだ。既存のeスポーツイベントでは会場内にポスターや看板、商品オブジェを掲示するのが一般的だが、バーチャル空間ならスキンで会場全体を自社ブランドに染めることもできる。ロビーにリアルイベントさながらのブースを設置して商品のデモ映像を流したり、抽選会を開いて当選した参加者に後日プレゼントを送付したりも可能だ。clusterのシステムではアプリ内で別のアプリを動かすことができるので、V-RAGE会場内でミニゲーム大会やサブイベントを開催するといったことも考えられる。
近年、日本でも若い世代を中心にゲームプレーヤーの裾野は広がっている。一方で、eスポーツを日常的に観戦する人はまだ少ない。大友氏は「選手、参加者、スポンサーそれぞれに楽しんでもらえる仕掛けを用意して、V-RAGEをeスポーツの新たな観戦文化として根付かせたい」と語った。
(日経クロストレンド 平野亜矢)
[日経クロストレンド 2020年4月28日の記事を再構成]
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