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小麦輸入大国・日本 でも「粉もん文化」は世界へ輸出

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NIKKEI STYLE

新型コロナウイルスの影響で外出自粛が続いている。消費活動も低迷している中、ひときわ目立って売り上げを伸ばしている食品がある。小麦粉だ。東京都の小池百合子知事が「Stay home! 買い物は3日に1回」と繰り返すのを受け、自宅でパンを作る人が増えていたり、学校が休みの子どもと一緒にケーキを焼いたりするのだという。欠品するスーパーもあり、それにつけこんでネットで高額に販売する輩も出てきた。そんな危機にあって注目をあびるこの小麦粉について考えてみたい。

一昨年香港を訪ねた折、ホテルの近くの「セブンイレブン」でサンドイッチを買ったときのこと。パッケージにはちょっと意外な宣伝文句が書かれていた。

「日本で製粉した小麦粉を100%使用」

香港の街角に日本語文字はあふれている。商品や広告に表示された日本文は、香港や台湾の人々にとっては、、ちょっとおしゃれで品質感を感じさせるものらしい。日本でも、Tシャツや文具に意味不明な英単語を躍らせているものはある。そういうのと同じかなとも思う。

しかし、そこは同じ漢字文化圏。平仮名は読めない香港の人も、漢字と数字でこの意味は通じるだろう。そこで気になるのは、なぜ「日本産小麦」ではなく「日本で製粉した小麦粉」と書いたのかということだ。香港では日本産の野菜、果物、和牛、乳製品、卵などの農産物や、各種の水産物などに人気がある。小麦粉も「日本産」がいいじゃないか。と、思うのだが。

と書いている私は、実はちょっととぼけている。実は日本は、小麦という作物を輸出できるほど生産していないのだ。平成30年度食料需給表では、日本国内の小麦生産量は76万5000トンで、これは国内消費651万トンのおよそ1割にすぎない。それに対して563万8000トンと国産の7倍の小麦が海外から輸入されている。一方、小麦という農産物の日本から海外への輸出量は、ゼロだ。

むしろ、はっきり言えば、日本は小麦の一大輸入国だ。そして、そのことに多くの日本人が気がついていないようだ。かなり前に、国産農産物振興を目指した「緑提灯(ちょうちん)」というプロジェクトを取材したことがあった、居酒屋などの店主に呼びかけて、自店で使う食材の国産比率を100%なら五つ星、80%なら四つ星というように自己申告でレイティングし、赤提灯ならぬ緑提灯を渡して店頭に掲げてもらうというもの。国産農産物振興のため、原料の産地に普段それほどこだわっていない人たちにも、なるべく日本産を消費してほしいという期待を込めた。

で、事務局が五つ星を申し出た大衆的なうどん店に、一応「うどんの小麦はどちらの産地ですか」と尋ねたところ、返ってきた答えが「うちはずっと日清製粉の小麦粉。ばりばりの国産でさぁ」。事務局は恐る恐る「たぶんそれはオーストラリア産の小麦粉かと……」

学校の社会科で「日本は加工貿易の国です」と習った。それは、各種の鉱物資源などを海外から輸入して自動車や電化製品を作って輸出するイメージだったが、小麦粉も同じようなものだと言えるだろう。つまり、香港で見かけたサンドイッチに使われた小麦粉は、日本の製粉会社が小麦を仕入れて製粉した小麦粉という食品であって、小麦という農産物ではないのだ。それで、「日本産」ではなく「日本で製粉した」という微妙な表現になるというわけだ。

しかし、この「日本で製粉した」という言葉は、「日本産ではない」ということを表す消極的な表現ではなく、むしろ「日本製」の高品質を訴えているようだ。でなければ、サンドイッチのパッケージにわざわざこれほど大きく表示する必要はない。農水省広報誌「aff」(あふ)の麦の特集では、「日本の製粉工場の設備と技術水準が世界トップレベルだといわれている」という言葉も使われている。

現在、日本が小麦を輸入している主な相手国とその比率をおよその割合で表すと、米国5:カナダ3:オーストラリア2となる(平成30年度食料需給表より)。ある程度分散しているわけだが、実は、これが「日本で製粉した」のベネフィットの源泉となっている。というのは、小麦は品種ごとに異なる加工適性があるのだが、国・地域ごとに主に産する品種が異なる。そして、小麦生産国であれば、自国産小麦の品質に縛られるが、輸入であれば、産地ごとに異なる種類の小麦が集まることになり、製粉企業はよりどりみどりで、そのそれぞれの特長を生かした活用ができるということだ。

日本では小麦粉を、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉に分けて扱っている。これらは、小麦粉が主に含むグルテン(タンパク質の一種)の量と、粒の粗さによる特徴を表している。それぞれの特徴と用途は次のようになる。

強力粉は粒度が粗めで、グルテンを多く含む。パンは、生地をこねたときにこのグルテンが網目構造を作り、これが酵母の発酵などによって気泡となることで、あのふわふわの状態になる。だから、強力粉はパン用に使われ、また中華麺や麩(ふ)にも使われる。パスタ原料となるデュラム小麦のセモリナというのも、この強力粉に含まれる。どれも、グルテンの粘りと弾力を生かしたものだ。

準強力は、強力粉と中力粉の中間で、中華麺や菓子パンなどに使われる。中力粉はグルテン量が強力粉よりも少ないもので、日本ではうどんやそうめんの原料となる。薄力粉は粒が細かく、グルテンが最も少ない。白さも特徴だ。これはケーキ、ビスケット、クッキーなどの洋菓子などに使われ、色のよさから製麺で色の調整などにも使われる。そして、各国が主に産する小麦の、製粉したときのタイプは次のようになっている。

米国:薄力、強力
カナダ:強力
オーストラリア:中力、準強力
※なお、米国とカナダではデュラム小麦のセモリナも産する

ということは、パン用には米国産、カナダ産を使い、うどん用にはオーストラリア産を使い、洋菓子には米国産を使い、という大まかな分類があるということだ。そして、実はこの強力~薄力の分類はかなり大ざっぱな分類だ。同じ原料でも、製粉の過程で、粉砕の仕方、粒の削り方、ふるいわけなどによって30~40種類の異なる品質の粉ができるという。

さらに、産地などによって異なる小麦の種類、ふるい分けた多種の粉同士の配合によって、膨大な数の組み合わせとなり、多様な性質の粉ができる。コロナ禍の自粛のなか、品薄と転売で話題となっているホットケーキミックスなどは「プレミックス」と分類されるが、これらではさらに、砂糖、でんぷん、乾燥卵、調味料などの副材料の配合があり、一層複雑で多彩な製品ができることになる。

ところで、日本が小麦輸入国になった理由はいくつか考えられるが、一つは、穀物供給については麦作よりも稲作に力を入れてきたことが挙げられるだろう。日本の土壌はやせた火山灰土が多く、畑作が得意な地域は限られる。一方、高温多雨で、稲作には向いている。そこで古来水稲作が行われ、とくに戦後は各種の技術革新で米穀の供給量を伸ばした。その一方、敗戦後のララ物資で小麦粉が欧米から供給されたことを端緒に、小麦は輸入するものという形が定まったと言える(※ララ物資は、太平洋戦争後に飢餓状態にあった日本に向けて、アメリカで設立された団体のLARA(Licensed Agencies for Relief in Asia=アジア救援公認団体)が日本へ送った支援物資。パンと脱脂粉乳で知られる戦後の学校給食のスタートのきっかけともなっている)

しかし、日本の小麦の利用史自体は長い。たとえば、小麦栽培に向く地域だった北関東や讃岐はうどんが古くから名物となっている。ほかにも古くからある小麦粉を使う食品として、そうめん、ほうとう、すいとんなどがあり、まんじゅうなどの菓子もある。近代以降にはパン、ビスケットなどの菓子、中華麺、パスタなどが作られた。

パンは、食パンや菓子パンなどの日本式のパンのほか、現代では欧米風の味も伝えるスクラッチベーカリーが街ごとにある。洋菓子は、街のケーキ店以外に、製菓企業の多彩な菓子がある。戦後はお好み焼きやたこ焼きなど新しい"粉もん"が登場している。また、小麦粉が脇役ながら味を大きく左右する天ぷらもある。これらのそれぞれに、さまざまな料理人、メーカーの個性、要求が発揮され、それに合った品質の小麦粉が求められてきた。そして、製粉企業がそれぞれに異なるニーズに対して細かく対応してきた結果、日本の製粉技術が向上したと言えるだろう。

今年2月、日清製粉グループで家庭用小麦粉やパスタなど各種の食品を扱う日清フーズの新製品発表会では、同社は海外に向けて天ぷらやお好み焼きなど日本の"粉もの"料理のプロモーションに力を入れているという説明があった。私はちょっと意地悪く「日本の粉もの料理に興味を持った人が、海外で地元メーカーの小麦粉を買ってしまうのではないか」と質問した。会社の答えは、やはり日本の小麦粉を使ったほうがうまくできるということを伝えていくということだった。それには自信があるとも。

そのとき、以前、ことあるごとに話を聞きに会いに行っていた日本のあるファストフードチェーンの商品開発者が、日本の製粉企業を激賞していたことを思い出した。彼はこの道四半世紀の手練れで、ヒットメーカーとして競合社にも知られた人だったが、小麦粉を使う商品については日本の製粉企業の技術力と対応力のおかげで成果を上げられたと繰り返し言っていた。とにかく、日本の製粉技術はすごいという。

もう一つ思い出すのは、米国在住の経験がある複数の友人・知人の証言だ。彼らによれば、「米国のスーパーで売っている小麦粉は、だいたいはオールパーパス(all purpose Flour)。あってもブレッドフラワー(bread flour)が加わるぐらい」だという。調べてみると、前者は日本でいう中力粉に近く、後者は同じく強力粉に近い。しかし、米国の消費者は、だいたいは何でもオールパーパスで済ますものらしい。日本の薄力粉に近いケーキフラワー(cake flour)はどのスーパーにもあるわけではなく、業務用の印象があるようだ。

かくして、「日本で製粉した小麦粉を100%使用」と表現するように、日本は小麦という作物ではなく、小麦粉という工業製品、いや食文化を輸出する国になったのだ。

(香雪社 斎藤訓之)

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