『エール』の窪田正孝 演じ切って達成感を味わいたい

日経エンタテインメント!

日経エンタテインメント!

主演俳優として年々存在感を増す窪田正孝。2019年は『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』が最終回視聴率で13.8%を獲得、今年2月には孤高の天才ボクサーを演じた『初恋』が公開になった。06年にデビューした窪田のブレイクスルーとなったのが、ヒロインを一途に思う青年・朝市を好演して一気に知名度と人気を得た、2度目のNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『花子とアン』(14年)だった。そんな窪田が、作曲家の古関裕而をモデルにした古山裕一役で『エール』に主演している。朝ドラで男性が主人公になるのは、『マッサン』(14年)以来6年ぶりだ。

1988年8月6日生まれ、神奈川県出身。06年に俳優デビュー。文中の作品以外の近年の主な出演作は、『僕たちがやりました』(17年)、『アンナチュラル』(18年)、映画『東京喰種トーキョーグール』シリーズ(17年、19年)など。取材は2月中旬に実施(写真:藤本和史)

「今回、主役だからという意識はあまりないです。それより、奥さんの音を演じる(二階堂)ふみちゃんがこの作品の顔だと思っているので、彼女が輝ける瞬間をたくさん作れたらいいなと、スタッフさんと考えています。とはいえ、家族や親戚のおじさんがすごく喜んでくれて。プレッシャーよりも、ワクワクする気持ちで一杯でした。

朝ドラはスケジュールが独特で、月曜から金曜までNHKに通って、基本はスタジオで撮るんです。セットの中で新しい出会いを繰り返して、描かれる時代も少し前だから、タイムスリップした感じ。毎日職場に通う会社員になった気分で、リズムが決まっているのですごく楽です。でも、他の仕事はとてもじゃないけどできません(笑)。

今は20代の裕一を演じているところです。モデルとなっている古関さんをご存知の方ともお会いしたりしましたが、とても無邪気な方だったと聞いて。誰も敵に回さず、煙たがられても最終的には認めさせる才能を持っていて、毛嫌いする人でさえも、人格で大きく包み込むイメージ。それが全てかなぁと思っています。その部分を役作りの1番の肝にしています。

ただし、勉強しすぎて台本より先走りたくないので、極力パーソナルな情報は入れないようにして。本番では思い切り、振り切って演じています。台本を読んでいると、つい古関さんのことを考えてしまうんですが、実際に現場で動いてみたり、セリフを口にすると、腑に落ちない瞬間もあるので、そういうときは監督の演技指導を信じて、そちらを貫いています。

裕一はとにかく不器用で。いろんなことがもうちょっとスムーズにできるはずなのにと思うんだけど、それに気付くのにものすごく時間を費やしてしまう。袋小路みたいなところで煮詰まっちゃったら、誰かが手を差し伸べてくれるまで自分じゃ出られないっていうか。だから、誰かのふとした一言で救われたりするんだと思うんですけど。ただ、僕は裕一のそういうところが人間らしくて好きです。今回何となく、古関さんに見守っていただいてる感覚があります。勝手になんですけど」

1人で演奏する場面は緊張

撮影前は、音楽にまつわるレッスンに多くの時間を割いたという。

「2~3週間でしょうか。短期間でいろいろと教えていただいて。ハーモニカ、指揮、楽譜の書き方、オルガンと、いろいろとあります。自分はずっと同じ席に座っていて、回転寿司のようにくるくると先生が変わって(笑)。

1人で演奏するシーンは、実際に生音を使ったりするので緊張しますね。その時の心情で音が変わったりもします。人生のどん底の時にハーモニカを吹くシーンがあったんですけど、そのときは音にならなくて。音楽としてはダメだけど、気持ちを表すという意味では成立しているから『OK』という監督の決断で、それは採用になりました。誰かのために吹くと音も変わるし、心の在り方1つで、指揮棒の振る強さや体に入る力の強さが違ってくるんです。

個人的には、指揮が好きです。みなさんプロの演奏家で僕の指揮に合わせてくれるので、気持ち良さもあります(笑)。あと不思議なんですが、音楽のシーンになるとみんな自然と体が揺れているんですよ。カメラマンさんも、テストだとカメラを構えながらちょっとリズムを取ったりしていて(笑)。

福島弁も練習しましたが、方言指導の先生に何も言われなくなってきていて、それぐらい今はなじんでます。小さい『つ』を抜くみたいなポイントがだんだん分かって。すごく愛嬌があるし、福島弁を聞いているだけで気持ちがほっこりします。古山家のなかでも、お父さん役の唐沢(寿明)さんと、お母さん役の菊池(桃子)さんがしゃべる福島弁はちょっと違っていて、どこか音楽を聴いているような気持ちにもなります」

裕一の妻・音の人物像も深く描かれる。音のモデル、金子は女性が男性より前に出ることを良しとしなかった時代に、強い自我と積極性で夫を引っ張った人物だ。

「夫より先にレコード会社と契約して、『ウチのダンナをなめないで』とすごんだとか。すごい奥さんですよね(笑)。自分に嘘をつけない真っすぐな人だったとお聞きしました。(二階堂)ふみちゃんがその部分を説得力を持って演じてくれているので、『金子さんてこういう人だったんだろうな』って横で見せてもらっています。

2人は作曲家と声楽家で、お互いにないものを補っている。この前、自分が作曲した曲で『ここをちょっと歌ってくれない?』という場面を撮影したんです。それでヒントを得たりして。理想ですよね。ケンカもするけど、手をつなぎ合って前に進んでいるのがいいなぁと思ってます。

ふみちゃんは本当に芸達者な女優さんです。客観的にものごとを見る力があって、譲れない部分や意志が明確。同じ食卓のシーンでも、シチュエーションによって全く違うアプローチの芝居をしてくるので、刺激的です。朝ドラに限らず、共演する方ってすごく大事。その人としかできないことがあるといつも思っていて、ふみちゃんとは意見を出し合えているので、手応えを感じています」

1つの役を掘り下げていけるのが、朝ドラの魅力だと言い、どっぷりと作品の世界につかって演じ切りたいと話す。

「1人の人物を生涯で表現できるというのは、何とも言えない感覚がある。以前に大河ドラマ(12年『平清盛』)で、結構長いスパンで1人の人物を演じさせてもらったとき、ある瞬間から役作りを意識することなく、カメラの前に立つと自然とすーっと役に入っていけたんです。『エール』の撮影が終わったとき、費やした時間の分だけ、得られるものがあるんじゃないかと思っています。特別に変わることはないかもしれませんが、達成感に満ちあふれていたいです」

(ライター 田中あおい、内藤悦子)

[日経エンタテインメント! 2020年5月号の記事を再構成]

エンタメ!連載記事一覧
注目記事
エンタメ!連載記事一覧