日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/5/16

現在、遠ざかった月の重力は地球の海水を引き寄せ、潮汐を作り出している。月がもっと近かった頃、地球に及ぼす力ははるかに大きかった。今回のモデルによると、月の重力は地球の海水どころか固体部分を大きく膨らませ、この膨らみが月に合わせて地球のまわりを動いていたという。しかし、この追いかけっこは月と地球のダンスを乱した。バランスを取り戻すため、月はダンスのパートナーから遠ざかりはじめた。

すると地球は、回転速度を緩めることで変化に対応。それに伴い、地球の形も変化した。赤道付近の岩石は、自動車の追突事故のように次々と衝突し、一時的に派手な造山運動を引き起こした。一方、両極付近の地殻は引き裂かれ、その下にあった高温のマントルが湧き出してきて、大量のマグマができた。

「超高速であること以外は、現在の中央海嶺で起きている現象と非常によく似ています」と、ロック氏は言う。現在、中央海嶺で新しい地殻が形成されるスピードは非常にゆっくりしているが、原始地球が減速する際には速やかに地殻が形成されたのだ。

この大変動の間に、巨大な岩石の塊の一部がマントル中に沈み落ちたかもしれない。こうした岩石が「44億年前のジルコン」のように化学的に進化した鉱物の原料になっただろう。もしそうなら、現在の大陸を構成する岩石を作ろうとした最初の試みだったことになる。

未知の世界

これまで地球の初期の歴史について論じてきたのは惑星科学者ではなく地質学者だったと、スターン氏は言う。「けれども、新しいグループが参入すると、本当に面白いことが起こります。原始地球の形成過程に着目した今回のアプローチは、これまでにない、完全に新しいものです」

米ノースカロライナ州立大学の惑星地質学者ポール・バーン氏は今回の研究には関与していないが、原始地球の形成に月が一役買っていた可能性は大いにあると言う。しかし彼は、地球を形作ったのは月だけではなかったかもしれないと言う。原始地球の内部の温度は現在の温度の3倍もあり、これだけの高温なら、月の助けがあってもなくても、表面にあらゆる種類の変化を引き起こしたと考えられるからだ。

地球は自身の地質学的な過去を地中に埋めてしまったので、月が若き日の地球に及ぼした大きな影響についての物語を証明するのは困難だ。しかしラッセル氏は、このモデルが正しいにせよ間違っているにせよ、原始地球をよりよく理解するのに役立つと言う。そのときに肝心なのは、生まれたばかりの地球を、私たちがよく知る故郷としてではなく、完全に未知の天体として見ることだ。

(文 Robin George Andrews、訳=三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年4月19日付]

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