感染拡大防止へITで行動追跡 プライバシー守れるの

「問題なのは、スマホアプリがまさにそうだが、後ろ向き利用で精度の高い記録を残そうとすると、ドライブレコーダーで延々と映像を撮影するのと同じように、情報を前向きに残す必要があることだ。この点に関して、シンガポールは後ろ向きの情報だけを利用すると表明している。前向きの記録は個々人のスマホにしか残さず中央サーバーには送らない。スマホユーザーの感染が発覚した段階で合意をとってスマホから情報を吸い上げる」

「中国の場合は、もともとプライバシーについての合意があまり重視されておらず、前向き利用と後ろ向き利用の区別が明確になっていないと思われる。前向きだろうが後ろ向きだろうがどんどん使ったほうが網によくかかると考えているようだ。防犯カメラによる追跡でも、感染が確定した人が出た後で情報を利用するのならいいが、実際には、感染していそうな人間を探すためにも多分使われている」

――感染者追跡アプリを日本に導入する場合の課題は?

「西欧諸国と同様、個々人の自由や人権を尊重するため、対策としての有効性が過少になってしまう危険性はぬぐえない。濃厚接触の心当たりのある人がアプリをインストールしないとか、情報提供を拒否するようだと実効性が低くなる。接触情報を近距離無線通信のブルートゥースで記録するといっているが、ブルートゥースをオフにすれば追跡をかわせると考える人も出てくるかもしれない」

――コロナ禍を機に非常時の政府の役割についての見方は変わると思いますか。

「ある程度変わるだろう。特にアメリカ型の個々人の自己決定を尊重してきた社会では、あれだけ人が亡くなるというダメージが果たして引き合うものなのか、という問題に直面することになる。自由とか自己決定とかいっても、結局は『不幸になる自由』でしかなかったのかと。これに対して『幸福になる不自由』あるいは『幸福を保証する服従』というのが中国モデルだ。中国は今回問題にされた情報隠蔽体質についてある程度反省しつつも、国家の強制権を前面に出した昔ながらのやり方に自信を深めるのではないか」

――日本での議論はどう進みそうですか。

「海外からみて日本の動向は謎だろう。例えば欧州は非常事態の下ではロックダウンのように国家の強制権を認めて個々人の自由は認めない方向にかじを切ったが、日本は自粛要請にとどめている。皆さんで考えて行動してくださいと。それで今のところは亡くなる人も少なく感染対策のパフォーマンスはいい。海外では『個人の自己決定』と『集団的な幸福』をどうバランスさせるかという議論をしているのだが、その議論の軸から外れた変なものがあるという感じに見られている。今後の感染状況は不透明だが、我々は今回の事態を機に社会の在り方を問い直すことが必要だと思う」

(編集委員 吉川和輝)

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