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コロナの思わぬ余波 米の薬物依存症患者が窮地

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ナショナルジオグラフィック日本版

2016年、アイオワ大学の医学部へ通うために故郷へ戻ったサラ・ジーゲンホーン氏は、薬物依存者を支援する小さな非営利団体「ハームリダクション連合アイオワ州支部」を立ち上げた。現在、医療検査やカウンセリング、無料で配布される日用品を求めて、年間5000人以上が同センターを訪れている。

ハームリダクションとは、薬物を無理にやめさせるのではなく、依存症の害(ハーム)をできるだけ減らす(リダクション)ことを目的とする取り組みだ。

ところが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)のせいで、その支援活動が難しくなっている。アイオワ州に限らず全米で起こっていることだが、どこの医療機関もギリギリの状態で持ちこたえているなか、薬物問題が消えてなくなるわけもなく、過剰摂取は依然として懸念されている。

米国では毎週、200万人以上が中毒性のある鎮痛剤オピオイドを、50万人が覚せい剤を使用している。2018年には、4万6000人が薬物の過剰摂取で死亡した。新型コロナウイルスが与える影響は社会的弱者ほど大きいといわれるが、なかでも薬物依存症患者は、特殊なリスクに直面している。

例えば、薬物使用者はテレビや新聞などと縁遠い生活を送っているため、感染症が流行中でも、感染リスクや予防法について正しい知識を持っていないことが多い。警察とトラブルになった経験から、権力機関を信頼できず、政府からの衛生情報さえ疑ってかかる者もいる。

たとえ情報を受け取ったとしても、社会的距離の確保や手洗いといった対策は、金銭的余裕がなかったり、ホームレス用宿泊施設や刑務所の中では実践が難しい。依存症で免疫力が低下している人も多く、様々な事情から医者へ行くこともままならない。

つまり、「ただでさえ弱い立場にある人々の状況が、パンデミックでますます悪くなってしまうのです」と、「公衆衛生法ネットワーク」の弁護士コーリー・デイビス氏は言う。

離脱症状という危険性

感染拡大防止のため国境が封鎖され、移動の自由が制限されていることで、おそらく薬物取引にも影響が出ていると思われる。そこで、一部のハームリダクション・クリニックでは、違法薬物の不足に備えるよう、以前から患者に対して注意を喚起してきた。

「矛盾するようですが、供給が減ると過剰摂取が増加します」と、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部教授のダニエル・シッカローネ氏は言う。供給が不足すると、人々は普段使い慣れていない薬物に手を出したり、複数の薬物を混ぜて使用し、分量が適当になって過剰摂取が起こりやすくなる。シッカローネ氏は、このパンデミックにより、オピオイド危機の第5波がやってくるのではないかと警戒している。

オピオイドの1種であるヘロインの元常習者で、パートナーが過剰摂取で死んだのを機に覚せい剤を使い始めたトム・スローベン氏は、パンデミックで違法薬物が手に入りにくくなったという。そのせいで今、離脱症状に苦しめられている。「まるで、体の両側に140キロのおもりを2個ぶら下げているようです。体が重くて動けません」

覚せい剤を突然やめると、激しい不安とうつに襲われる。また、オピオイドであるヘロインやフェンタニルは、とりわけ離脱症状が重いことで知られている。「離脱症状に耐えきれず、自殺してしまった人も知っています」と、ジーゲンホーン氏は言う。

アルコールなど合法の薬物であっても、手に入りにくい状況は同じようにリスクとなる。ペンシルベニア州では、実際に今年3月、酒屋が数週間閉鎖された。こうした状況では、人々はアルコールによる離脱症状の発作を起こしやすくなり、場合によっては死にいたることもあると、全米ハームリダクション連合の医療部長キンバリー・スー氏は警告する。

「薬物依存症にとって最悪の事態です」

ハームリダクションの団体は以前から、メサドンやブプレノルフィンなどオピオイド依存症の治療薬をもっと手に入れやすくするべきだと訴えてきた。これらの治療薬は離脱症状を抑え、薬物への欲求を減らし、過剰摂取を防ぐ効果がある。米国では、薬物乱用・精神衛生管理局(SAMHSA)と麻薬取締局(DEA)が処方の条件を決めている。薬が一般に広く普及していないのは、この条件が厳しすぎるためだ。

たとえば、メサドンを手に入れるには、認可を受けたオピオイド依存症の治療プログラムへの参加が求められる。患者は毎日プログラムへ通い、監視されながら薬の投与を受ける。だが、子どもの預け先がなかったり、仕事のスケジュールの関係でプログラムに参加できない人も多い。また、自宅が遠方で通えない人もいる。ブプレノルフィンに関しても、処方する医師は専門のトレーニングを受けなければならない。

だが、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、1カ月ほど前からこれらの条件は緩和された。薬物依存の治療中で「安定状態にある」とされた患者は、28日分のメサドンを自宅に持ち帰れるようになった。ブプレノルフィンも、直接クリニックに出かけることなく電話診療で新規の処方箋を出してもらうことが可能になった。

「一部の州では、クリニックの職員が感染して十分な医療が提供できていないと聞いています」と、SAMHSA局長のエリノア・マカンス・カッツ氏は話す。条件の緩和で可能になった電話診療が、コロナ後も続けられることをカッツ氏は期待している。1年前の同じ時期に比べると、1カ月でSAMHSAの災害ヘルプラインへかかってくる電話は10倍近くになったという。

しかし、この新たなガイドラインの導入は思うように進んでいない。州によって導入の状況はまちまちだ。世界的な公衆衛生団体であるバイタル・ストラテジーズのダリア・ヘラー氏は、パンデミックは「薬物依存症にとって最悪の事態です」とコメントした。

安全な場所を見つけるのが難しい

新型コロナウイルスのせいで支援が難しくなることに加えて、依存症や収監、そして密な空間といった条件が重なり、薬物の使用者は高い感染リスクにさらされるかもしれない。ニューヨーク州にあるライカーズ島刑務所では、少なくとも365人の感染が確認された。受刑者全体のおよそ9%だ。

パンデミックの間、暴力的事件とは無関係の麻薬取締法違反者を刑務所から釈放する動きもあるが、米ノースイースタン大学で法律と健康科学を教えるレオ・ベレツキー教授は、それだけでは不十分だと指摘する。通常時であっても、出所者の社会復帰は健康の面から難しく、リスクも高い。経済が崩壊してホームレスのシェルターやフードバンクに多くの人が押し寄せ、限りある支援物資はますます逼迫している。

非営利団体プロジェクト・リニューアルの依存症医学医療部長ジョナサン・ギフトス氏は、パンデミックの影響で依存症患者が家族からの支援すら受けられなくなるのではと警戒する。「家族に依存症患者がいると、通常時であっても大変です。自分たちの生活が苦しくなれば、その家族を支えることはさらに困難になるでしょう」

薬物使用者の自己隔離が可能だったとしても、周りに助けてくれる人がいなければ、過剰摂取してしまう恐れがある。ジーゲンホーン氏も、この悲劇を個人的に経験した。

ジーゲンホーン氏が婚約者のアンディ・ビーラーさんに出会ったのは、アイダホ州ハームリダクション・センターを立ち上げて間もない頃だった。ビーラーさんは、麻薬取締法違反で服役していた刑務所から出所したばかりだった。「人々を生かし続ける」という共通の目的を持ったふたりは、やがて親しくなり、ハームリダクション活動について電話でよく話をするようになった。初めて実際に会ったとき、ジーゲンホーン氏は「この人と結婚する」と思ったそうだ。

ビーラーさんは、出所後も時折ヘロインを使用していた。完全に断ち切るのは困難だった。メサドンやブプレノルフィンも試したかったが、麻薬検査で偽陽性が出るという話を聞き、仮出所中のビーラーさんはためらっていた。ふたりが交際するようになって1年経った頃、ビーラーさんは氷の上で足を滑らせて肩を脱臼し、鎮痛剤のオピオイドを処方された。これがきっかけで、またオピオイドに依存するようになってしまった。

何度か過剰摂取をして命の危機にさらされたが、そのたびにジーゲンホーン氏に発見されて助かった。ところがある日、ジーゲンホーン氏は手術のため朝早く病院へ出勤しなければならず、まだ寝ていたビーラーさんをそのままにして家を出た。その日職場からビーラーさんへテキストメッセージを送ったが、返事がなかった。友人に連絡して様子を見に行ってもらうと、ビーラーさんは既に過剰摂取で死亡していた。

愛する人を失うという「信じられない、想像を絶する痛み」を経験したジーゲンホーン氏は、パンデミック中も同僚と協力してアイオワのクリニックを運営し続けている。そのことによって感染リスクが高まるとしても、クリニックを閉鎖すれば、利用者は他に安全な場所を見つけることができなくなってしまうのだ。

(文 LOIS PARSHLEY、訳=ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年4月24日付]

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