現場の奮闘をリアルに 夢中になれる医療漫画10選
医師に看護師、薬剤師……。病と向き合い、私たちの命と健康を守る仕事だ。その奮闘ぶりをリアルに描く医療マンガは私たちを夢中にさせる。おすすめの作品を13人の書店員が選んだ。
1位 透明なゆりかご
重いテーマでも ほっとする絵
准看護学科で学ぶ高校3年生の×華(ばっか)は母親の勧めもあり、産婦人科医院でアルバイトの看護師見習いとして働き始める。そこは新たな命が誕生する喜びに満ちた場所。だが、それだけではなかった。中絶で消える命、紙袋に入れて捨てられていた赤ちゃん、幼い我が子の突然死、14歳の若さでの妊娠、命懸けのハイリスク出産……。「誰もが幸せに出産するわけではなく、中絶や死産に直面することもある。重いテーマを描いた作品」(渋谷孝さん)
作者がアルバイトをしていた1997年当時の実体験をもとに描いた物語。女性向け漫画誌(電子版)「ハツキス」で連載中だ。20~30歳代の女性を中心に熱心なファンも多い。
生まれてくることのなかった命をイメージさせるタイトルも相まって書店員からは「涙なしには読めない」という意見が複数。「命とは何か考えさせられた」「男性にもぜひ読んでほしい」と推薦する声が目立った。「1コマ1コマが衝撃的でハードな内容の半面、ほのぼのとした絵柄。殺伐とした雰囲気になるのが抑えられ、読者も受け入れやすい」(赤須恵美さん)という指摘も。深刻で苦しくなるような場面も、どこかほっとする絵が読者をひきつける。NHKで清原果耶さん、瀬戸康史さんらが出演してドラマ化された。
(1)沖田×華(2)講談社(3)既刊8巻(4)440円+税
2位 アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり
表舞台に出ない仕事に焦点
総合病院の薬剤師として働く葵(あおい)みどり。患者に薬を用意するだけでなく、医師が出す処方箋に疑問点があれば確認する「疑義照会」も仕事のひとつだ。しかし問い合わせた医師からは「正直ウザがられる」と感じるみどり。「もしかして薬剤師っていらなくない?」と悩みつつも、患者の当たり前の生活を守るため病院を駆け回る。
「普段あまり表舞台に出てこない薬剤師にスポットを当てていて興味がわいた。マンガとしてドラマ性も持たせつつ、薬剤師の立場や仕事も十二分に伝わる」(日吉雄さん)。「現場に必要とされる薬剤師になるために踏ん張る主人公、頑張れと伝えたくなる」(山岡江梨子さん)。身近な薬のことを扱う専門家の知られざる姿を知りたいと手に取る人が多いようだ。「月刊コミックゼノン」で連載中。石原さとみさん、西野七瀬さん、田中圭さんらの出演でドラマ化も進行。フジテレビ系で放送予定だ。
(1)荒井ママレ、医療原案/富野浩充(2)コアミックス(3)既刊4巻(4)580円+税
3位 フラジャイル
病理の現場描写 胸熱くなる1冊
病気の原因を解剖などで調べ、診断を下すのが病理医。岸京一郎は優秀だが口が悪く、周囲と衝突が絶えない。「岸先生という強烈なキャラクターに加え、くせ者ぞろいの大人たちが患者、病気、利権、様々なものと闘う。読んでいて胸が熱くなる」(古川航貴さん)
1巻で「私を病理に入れてください!」と訴える内科医だった宮崎、「他科の臨床医と対立することはあっても患者に感謝されることはない」「あるのは責任だけだ」と話す岸。印象的なセリフも多い。「病気の原因を特定する大変さ、院内の実情などしっかり描写している。面白さ抜群」(神谷武之さん)。「アフタヌーン」で連載中。フジテレビ系で長瀬智也さん、武井咲さんらの出演でドラマ化された。
(1)原作/草水敏、漫画/恵三朗(2)講談社(3)既刊17巻(4)660円+税
4位 Shrink~精神科医ヨワイ~
温かく優しい人柄光る
米国では精神科医をshrink(シュリンク)と呼ぶという。パニック障害、うつ病、発達障害……。日本でも悩みを抱える人は多いが、「精神科は特別なところ」という思い込みが人々の足を遠のかせる。精神科医の弱井はそんな日本の現状を変え、ひとりでも多くの心を救おうと動き出す。「連載1話目から注目していた。ちょっと落ち込んだら会う相手が精神科医だというセリフにもひかれた。日本という国でもっと知ってもらいたい医療」(八木泉さん)。「『そんなこと』で精神科にかかっちゃダメですか?」という弱井の言葉、温かく優しそうな人柄には書店員から共感の声が集まった。「グランドジャンプ」で連載中。
(1)原作/七海仁、漫画/月子(2)集英社(3)既刊2巻(4)600円+税
5位 コウノドリ
産科医主役 家族の物語に涙
年齢・経歴不明のピアニスト「ベイビー」としても活動する産科医の鴻鳥(こうのとり)サクラが主人公。妊娠していると分かっているにもかかわらず、健診を受けなかった「未受診妊婦」や予想もつかない「切迫流産」など様々なテーマを軸に物語が展開していく。
「リアルな描写で話題になった作品。命の重さを考えさせられる。家族の物語でもあって胸が詰まりそうになる」(黒松亜美さん)
妊婦やその家族、人間のつながりを描くドラマに「必ず泣いてしまう」という書店員も多かった。「モーニング」連載中で最終章に突入している。綾野剛さん、松岡茉優さんらが出演してTBS系でドラマ化された。
(1)鈴ノ木ユウ(2)講談社(3)既刊30巻(4)640円+税
5位 JIN―仁―
江戸が舞台 医療の原点問う
大学の付属病院に勤める脳外科医の南方仁が2000年から幕末にタイムスリップ。電気も消毒薬も抗生物質もない時代に、歴史を変えてしまうと自覚しつつも医師として出会った人々の命を救っていく。「江戸時代の人々の生き生きとした生活を描きつつ、医療の原点も問うている。圧倒的な面白さ」(神谷康江さん)
医療技術・知識の変遷を知ることができたり、坂本龍馬や勝海舟、緒方洪庵ら実在の人物が多数登場してストーリーに絡んできたりするのも魅力。「スーパージャンプ」に連載。大沢たかおさん、綾瀬はるかさんらが出演してTBS系でドラマ化された。
(1)村上もとか(2)集英社(3)文庫版全13巻完結(4)619円+税(文庫)
7位 ラジエーションハウス
放射線技師の仕事に爽快感
レントゲンやCT(コンピューター断層撮影装置)で病変を映し出す診療放射線技師。撮影の腕は一流だがコミュニケーションが苦手な五十嵐唯織(いおり)は、幼なじみの甘春(あまかす)杏が放射線科医として働く病院に採用される。病気やけがの真相を探り当てる唯織に最初は反発する杏。ただ2人の距離は徐々に縮まり……。
「放射線技師の仕事ぶりは職人そのもの。ぼんやりと浮かぶ画像から病を特定していく姿は外科医マンガに劣らぬ爽快感がある」(木村歩夢さん)。「グランドジャンプ」連載中。窪田正孝さん、本田翼さんら出演でフジテレビ系でドラマ化された。
(1)原作/横幕智裕、漫画/モリタイシ(2)集英社(3)既刊9巻(4)600円+税
8位 リウーを待ちながら
感染症に立ち向かう姿必見
富士山麓の架空の街、横走。駐屯していた自衛隊員が突然吐血して倒れ、同じ症状の患者が相次いで亡くなる。病院には人が押し寄せ、事態は悪化の一途をたどる。日常が徐々に崩壊していくなか、内科医の玉木涼穂たちが拡大する感染症に立ち向かっていく姿を描く。
フランスの作家アルベール・カミュの「ペスト」に登場する医師リウーの名がタイトルにも。「いま絶対に読んでほしい。世界が直面している非常事態に似た状況に驚く。カミュの小説の一節を引用した『ペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです』というフレーズが心に迫る」(山内歩さん)。「イブニング」で連載。
(1)朱戸アオ(2)講談社(3)全3巻完結(4)630円+税
9位 医龍 ―Team Medical Dragon―
病院内外のドラマがリアル
かつて途上国で医療チームを率いて多くの人命を救った外科医の朝田龍太郎。教授命令に背いて医療から離れていたのを大学病院改革を狙う明真大学助教授の加藤晶が招く。朝田はチームの人選を任せるよう求めるが……。救命救急の現場から権力闘争まで病院内外のドラマをリアルに描く。「『誰かが助けてくれるのがチームじゃねえ。死にものぐるいで全員の役に立とうと思うのがチームだ。』という朝田龍太郎のセリフに感銘を受けた」(石原聖さん)。「ビッグコミックスペリオール」で連載。フジテレビ系で坂口憲二さん、稲森いずみさんら出演でドラマ化もされた。
(1)乃木坂太郎、原案/永井明(2)小学館(3)文庫版全16巻完結(4)800円+税(文庫版)
10位 放課後カルテ
子供に潜む病気と向き合う
日中に耐えがたい眠気に襲われるナルコレプシー、拒食症に過食症、顔面に起こるベル麻痺(まひ)……。育休中の養護教諭の代わりに大学病院から小学校の保健室にきた小児科医の牧野が子どもに潜む病気と向き合う。無愛想で口も悪いが、鋭い観察眼で一目置かれる存在になっていく。「一概に病気、けがと言えない身近な問題が胸に刺さる。今では知名度が高いナルコレプシーをこのマンガで知った方が多いのでは」(西室浩之さん)
ナルコレプシーに悩む少女の言葉「私を初めて見つけてくれた先生だよ」に感動したという声も。子育て世代の心もつかむ作品だ。「BE・LOVE」で連載。
(1)日生マユ(2)講談社(3)全16巻完結(4)429円+税
手塚作品先駆け 50年で分野充実
新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、医療現場の奮闘は続く。医師や看護師らが患者とともに難病と闘う姿を描いたマンガを読めば、改めて感謝や応援の気持ちがわいてくるだろう。
医療マンガといえば、無免許の天才外科医が活躍する手塚治虫作「ブラック・ジャック」を思い浮かべる人も多い。医療分野でのマンガ・コミックス表現の活用を考える日本グラフィック・メディスン協会によると、日本の先駆けは手塚作品の「きりひと讃歌(さんか)」という。連載開始は1970年。2020年は50年の節目で、協会は「医療マンガ50年史」のプロジェクトを進めている。
今回00年以降に連載が始まった比較的新しい作品を対象に、医療現場の実情を描いたなどの基準で選んでもらった。外科医が主人公のイメージは強いが、近年はテーマも多様に。病理医など患者と会う機会の少ない仕事を描く作品も並んだ。自らの闘病体験をもとにしたコミックエッセーも増えている。店頭で入手しづらいものもあるが、出版社のサイトでの試し読み、電子書籍という形で楽しめるものも多い。
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[NIKKEIプラス1 2020年5月2日付]
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