果物が食べられなくなる? 人知れず数を減らす昆虫

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/5/10

昆虫は地球上でずば抜けて種類の多い生き物だ。その正確な数を把握するのに、いまだに研究者は悪戦苦闘している。これまでに命名された昆虫はおよそ100万種だが、未発見の種はもっと多く、最近の推計ではさらに400万種がいるとも考えられている。

なぜ昆虫はこれほど種類が多いのか。その理由についてはいろいろな説があるが、歴史が古いからというのが最も単純な説明だろう。その古さは並外れている。恐竜が地球上に現れるよりも2億年近くも早く、実に4億年以上前に陸地にすみついた最古の生き物の一つなのだ。こうした長い歴史のなかで、昆虫は多様性を育んでいった。

昆虫の絶滅率の低さも理由に挙げられる。少なくともこれまでは低かった。数年前、甲虫類最大のカブトムシ亜目の化石記録を調べたところ、この亜目は絶滅した科が皆無で、6600万年前の白亜紀末に起きた大量絶滅も生き延びていたことが判明した。それだけに、近年の激減ぶりがいっそう不吉に思えてくる。

昆虫は数えきれない仕事をこなしているが、正当に評価されることはほとんどなかった。顕花植物のおよそ4分の3は、ハチやチョウといった昆虫たちに受粉を頼っている。リンゴからスイカまで、果物のほとんどは花粉を運ぶ昆虫がいないと結実できない。

種子を散布するのも昆虫の重要な役割だ。植物の多くは種子に「エライオソーム」と呼ばれる脂肪などの栄養を付着させる。種子を運んだアリはおいしいエライオソームだけ食べて、残りは放置する。こうして種子は離れた場所で発芽するのだ。

また昆虫は、淡水魚のほか、ほぼすべての陸生動物の食べ物になる。雑食の鳥も、幼鳥のときは昆虫が大切な栄養源だ。北米に生息する鳥も急減しており、1970年に比べてほぼ3分の1になっていることが最近の調査でわかった。減少が深刻な鳥のなかには、昆虫を多く食べる種が含まれている。

有機物を分解する昆虫は、生命の循環にも一役買っている。フンチュウは栄養分を土壌に還元するのを助け、シロアリも同様に木を食べて土に戻している。昆虫がいなければ、人間を含む生き物の死骸は分解されずに積み上がっていくばかりだろう。

またある種の寄生昆虫は、農作物を食べるイモムシが過剰に増えるのを防いでいる。そのため、個体数が減少すれば、農業の被害が大きくなると考えられる。もし、イモムシと寄生昆虫の相互作用が減っていれば、人間の知らないところで食物連鎖が崩れている可能性がある。

この不吉な流れを逆転させるために、一体何ができるのか。もちろんそれは、何が原因かによって変わってくる。もし、気候変動が主要因であれば、地球規模で温室効果ガスの排出を減らす努力をすることが、実際に変化を起こす唯一の方法のように思える。農薬や生息域の消失が原因ならば、地方や地域単位での取り組みが、大きな効果を上げると考えられる。

欧州連合(EU)は送粉昆虫を守る試みとして、ネオニコチノイド系農薬の大半を使用禁止にした。この農薬と昆虫や鳥の減少との関連が、複数の研究で指摘されているためだ。

エクアドルのアマゾン川流域にある調査拠点で、照明を当てたシーツに集まる多くの昆虫たち。だが、もう少し開けた場所では、こうした仕掛けや車のフロントガラスに張り付く虫の数はぐっと減る。気候変動、生息地の消失、農薬の使用といった要因が関係している(PHOTOGRAPH BY DAVID LIITTSCHWAGER)

(文 エリザベス・コルバート、写真 デビット・リトシュワガー、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年5月号の記事を再構成]

[参考]ここでダイジェストで紹介した「昆虫たちはどこに消えた」は、ナショナル ジオグラフィック日本版2020年5月号の特集の1つです。また自閉症の今に焦点をあてた「大人の自閉症」「自閉症の兆候を見つける」、数千年にわたって受け継がれてきた「移牧」、チリとアルゼンチンの広大な土地を買って両国に寄贈し、自然公園にしてもらおうという米国人夫妻の取り組みを追った「南米 大自然の贈り物」なども収録しています。

ナショナル ジオグラフィック日本版 2020年5月号[雑誌]

出版 : 日経ナショナルジオグラフィック社
価格 : 1,210円 (税込み)


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