果物が食べられなくなる? 人知れず数を減らす昆虫

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/5/10
ナショナルジオグラフィック日本版

春になって昆虫たちの姿を見かけることが多くなった。今、昆虫たちの個体数が減っていることをご存じだろうか? 昆虫が生態系で果たしている役割は多く、身近なところでは受粉もミツバチなしではできない。ミツバチが姿を消したら、農業もたちいかなくなる。ナショナル ジオグラフィック2020年5月号では、急速に数を減らしている昆虫に焦点をあて、その原因を探っている。

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人類が地球に影響を及ぼす時代という意味で、現代は「人新世」と呼ばれている。だがそれでも、さまざまな意味で世界を支配しているのは昆虫だ。推定で1000京(1兆の1000万倍)もの数の虫たちが、至るところで飛び、はい回り、宙に舞い、行進し、穴を掘り、泳いでいる。

さらに昆虫は種類の多さでも抜きん出ていて、動物の全種類のうち約80%を占めている。知っての通り、現在の地球環境が維持できているのは昆虫のおかげだ。彼らが花粉を運んでくれないと、花を咲かせる植物はほぼ全滅してしまう。

生物学者のエドワード・O・ウィルソンはいみじくもこう指摘している。もし、人類が突然姿を消しても、地球は「1万年前の、バランスがとれた豊かな環境を取り戻すだけだ。しかし昆虫がいなくなれば大混乱に陥る」と。

ドイツ、クレーフェルト昆虫学会は、20年以上にわたってドイツ国内のさまざまな保護区における昆虫の状況を調査している。ネットをテント状に張った「マレーズトラップ」という仕掛けで、、ハエやハチ、ガ、チョウ、クサカゲロウなど、飛び込んできた昆虫を上部に設置した瓶の中へ集めて捕らえるのだ。

こうして集めた調査を、ほかの研究者や統計の専門家に協力を仰いで分析したところ、1989年から2016年までに、国内の保護区に生息する飛翔昆虫の総重量がなんと76%も減少していることが判明した。

これをきっかけに、世界中の昆虫学者は過去の記録や標本の洗い出しを始めた。劇的な変化を伝える研究は専門誌に掲載されやすいという指摘もあるが、それでも背筋が寒くなるような結果が次々と明らかになっている。米国ニューハンプシャー州の保護区の森では、1970年代半ばから甲虫が80%以上減少し、昆虫の多様性は40%近く低下したと報告されている。

ほかにもオランダではチョウの個体数が19世紀末に比べて約85%失われ、米国中西部ではカゲロウの個体数が2012年の半分以下になっていた。

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