コロナで変わる家事分担 在宅勤務の夫がワザを磨く
3月以降、在宅勤務が急速に広がった。外出自粛要請で家族が自宅で過ごすようになり、家事や育児の負担は増えている。共働きなら条件は同じ。夫婦の家事育児の分担を見直す時機が来た。
4月中旬の平日。東京都内在住の会社員、加藤たけしさん(36)は仕事の合間をぬって立ち上がり、自宅フローリングをササッときれいにした。「汚れがこびりつく前に簡単な掃除をしたほうがいいと聞いた。一気にするより時短につながっている」と話す。
政府の緊急事態宣言を受け、4月から加藤さんは完全な在宅勤務に切り替わった。子供が通う保育園は休園になり、育児休業中の妻は生後4カ月の次男の世話で手いっぱい。テレビ会議をはじめとした仕事の効率を高めるために無線のマイク付きイヤホンを購入したが、「育児の負担が増えたなかで、何とか仕事時間を確保している状況」だ。食事は割り切ってテークアウトやデリバリーも利用する。
「家事は手抜き。風呂掃除はほとんどできていないし、掃除機も使っていない」という。それでも加藤さん家族が健康的な生活ができるのは以前、毎月1回程度利用していた家事代行サービスのCaSy(カジー、東京・品川)スタッフから学んだ「こまめな掃除」の教えを実践しているからだ。「入浴後は、使ったタオルで蛇口や浴槽、床の水気を取る」「トイレの汚れはこまめに落とす」。加藤さんは「新型コロナの後も在宅勤務の働き方は変わらないだろう」と先を見据える。
今まで多くの夫にとって家事や育児は参加し、手伝う程度だったかもしれない。しかし状況は一変。野村総合研究所が3月に実施した「新型コロナウイルス感染症拡大と働き方・暮らし方に関する調査」では夫婦共働き世帯の30、40代の夫1292人で「担当する家事の量や頻度が増えた」とした割合は24.5%。育児の負担も同1000人中、27.7%が増えたと答えた。
在宅勤務で初めて気づいた家事や育児の負担はあるはずだ。スマートフォン向け献立アプリのミーニュー(岡山市)が3月末、20~40代女性(東京都のほか、神奈川県など3県の計600人)を対象にした調査では、在宅勤務や学校の臨時休校で「家事が増えた」と答えた全体の約4割中、半数近い人が負担に感じる家事としたのは「献立を考えること」「料理」だった。
通常、子の昼食が給食だった家庭では平日1食分、親も在宅なら家族分が増加。仕事のパフォーマンスを維持し家族の三食を考え、食材確保や準備をするのは負担になる。
「皆さん進捗はどうでしょうか?」「できました~!」――。ビデオ会議サービス「Zoom(ズーム)」を使って、パパ料理研究家の滝村雅晴さん(50)が開いた「親子料理教室」の企画。滝村さんが手際よくオムライスを調理する様子を映し出すと、参加親子はパソコンなどで確認しながら見よう見まねでつくり出す。合間に画面越しに質問することができ、最後は無事、全員がつくりあげた。
「これまでは男性が料理をする、しないの話だった。今はつくるのが前提。食事が出てくるのを待つだけでは幼稚園児と同じ」と滝村さん。今こそ、男性の出番と強調する。
福岡県久留米市の会社員、馬場義之さん(49)は休校で手持ち無沙汰気味な小学生の次男と参加した。「料理は苦手。今までは妻が料理、自分は皿洗いと分担していたが、これからは自分も料理にトライしていきたい」。Zoom料理塾の後、全国の父親同士が近況を語り合えたのも収穫。「すぐに打ち解け合えて、刺激になる」。5月にも本格開始予定のZoom版「パパの料理塾」に関心を寄せる。
人材サービスのビースタイル(東京・新宿)が1月に実施した働く主婦の調査では、夫の家事・育児に不満を抱く女性は52.5%と、2年前に比べて約5ポイント増。働き方改革が進んだにもかかわらず、夫の家事や育児は不十分としている妻の不満を映した。
以前から家事や育児に積極的に取り組む加藤さんは「『イクメン』『カジメン』と言われてもうれしくない」という。「男性だけなのはおかしい。死語にしていきたい」
在宅勤務や外出自粛は長期化する見通しだ。100年に一度の変革期。家事育児への男性の覚悟が問われている。
行動変えるきっかけに ~取材を終えて~
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日々の生活は一変した。いきなり在宅勤務や家事、子育てなどに直面して戸惑いを感じる男性は少なくないが、大きな外的変化は行動を変える好機でもある。加藤さんは妻の留学をきっかけに家事を始めるようになったと話す。
育児休暇を取るものの、最低限の育児で満足する男性が女性から「取るだけイクメン」と批判されるように、制度だけで男性の意識や行動まで変えるのは難しいのが現実だった。ストレスのたまる生活を強いられるためか、インターネット上では「コロナ離婚」という言葉もみられる。外出自粛だから我慢するのではなく、生活や働き方をどう変えていくのか家族で話し合う機会にしたい。
(世瀬周一郎)
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