このそばめしのレシピ、後に父が浮気相手から教わったことが発覚する。「愛人に習ったレシピを家族に披露するって。どんな神経してんねん、ですよ」

でも家で肩身が狭い引きこもりは、父の愛人発覚を利用して立ち回る。時に父の味方をし「分かるよ、晩メシがカップ麺だったらテンション下がるよ、浮気もするわ」。その一方で時に母の味方になり「こんな大変なときに、おやじ、あれはないわなー」と。「うまいこと引きこもるために、おやじ側とおふくろ側をコウモリのように行き来して自分のポジションを確保した」

引きこもりの終了は突然やってきた。テレビで同年齢の人たちの成人式のニュースが目に入り、急に焦ったのだ。検定試験を受け、なんとか大学に入学。お笑いに出合った。上京し、養成所に通った。

2008年、貴族ネタが大ヒットした後は、ご存じの通り「一発屋芸人」として活動の幅を広げている。

「引きこもりは完全に無駄な時間だった。後悔している」。周りはその経験あってこそ今があるのではと意味づけするが、自身はこう言い切る。皆がキラキラした意味のある人生を送れるわけではない。送る必要もない。

今後の目標を聞くと「ないんですよね。どうなりたいとか」。中学生のときと変わらない。ただ、粛々と、とりあえず生きる。目の前のことを受け入れて。父の愛人のレシピさえ。

娘の舌を肥やす刺し身

魚ばか106のお刺身盛り合わせと鮭といくらの親子飯(東京都目黒区)

家族でよく訪れるというのが、東京都目黒区の駒沢通り沿いの「魚ばか106」(電話03・5768・7336)だ。店名の通り、沼津港などから直送されてくる新鮮な魚がウリだ。

人気は「お刺身(さしみ)盛り合わせ」。店主の村上浩一郎さんに量や金額を相談しながら注文できる。村上さんは静岡県出身で、漁師の友人から仕入れているものもあり、「ええお刺し身なんですよ」と山田さんは話す。ただひとつ、心配の種があるそう。小さい頃から一緒に来ている長女が「ぱっくぱっく食べるんですよ。大人になったら困るな、失敗したなと思って」。

酒好きの山田さんのおすすめのアテは、しらすとミョウガのあえ物だ。さらに締めには土鍋で炊いた「鮭(さけ)といくらの親子飯」(時期によるが3千円程度)と、最後まで「全部うまい」という。

最後の晩餐】 娘の姿を視界に入れつつ、ウイスキーを飲みたいです。ボウモアやグレンフィディックなどモルトウイスキーの「酒!」っていう潔い印象のものが好き。つまみは、奥さんが作ってくれるやつ。居酒屋のおつまみメニューを、家で再現しようとしているんですよ。

(井土聡子)

やまだるい53せい  1975年兵庫県生まれ。愛媛大学を中退し上京、芸人の道へ。99年にひぐち君と「髭男爵」を結成。執筆、ラジオなど多方面で活躍しており、2018年には月刊誌に連載した「一発屋芸人列伝」が「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞した。

[NIKKEIプラス1 2020年4月25日付を再構成]