定年後、やりたいことが見つからない
著述家、湯山玲子さん
仕事をしているときは、辞めたら「いろいろなこと」をやって「いろいろなところ」に行こうと思っていましたが、定年で時間ができたら、いろいろなことに興味を持てなくなりました。教養が大切なのかなと痛感しています。(岩手県・60代・女性)
◇ ◇ ◇
どうも、日本人は自分の人生の時間を自分の意思で、自分のために使うことが苦手なようです。
そりゃ、そうですよ! 考えてみれば、小学生のときから、放課後は塾や部活、社会人になってからは仕事に子育てに追われます。余暇も人付き合いや気晴らしのエンターテインメントや旅行で時間が潰れてしまう。自分の心の欲求を行動に移すというよりも、外部から押し寄せてくる「やらなければならない」ということがらを、条件反射のように打ち返して過ごすのが、多くの人の生き方なのです。ちなみに、日本には季節ごとに行事が目白押し。花見だ、夏祭りだなどと流されていても、面白く生きられる装置がそろってもいます。
そう、定年後「いろいろなこと」をやろうと思っていたのに、実際そうなったら興味を失ったという相談者氏の件も、「自分の心の欲求を行動に移す」訓練ができていないから。心の欲求というものはオリジナルなものですが、ワガママという言葉で抑圧されてしまう経験を、みな持っているのではないでしょうか。
相談者氏の「やりたいと思っていたいろいろなこと」とは、忙しさの中での逃避願望もしくは、他人からの受け売りにすぎなかったということが露呈して、シラケてしまったということでしょうね。本心に向き合ったとき、「私がやりたいことって何にもなかったんだ」と気づき、その原因は教養不足だとも。
結論を言いますと、「やりたいこと」を見つけるのに時間を費やすよりも、とりあえず、興味がなくなった現役時代の夢を、義務のように実現することをオススメします。行動することの快感を得て、意思→実行→快感の回路を太くする。面白いことに、そうなって初めて、ぼんやりとしていた「心の欲求」がはっきりするところもあるのです。
ただ、現在は行動しようにも、新型コロナウイルスの感染拡大で外に出られません。例えば、パリに行ってみたいという欲求なら、パリに関する映画を見まくり、小説を読みまくり、自宅でフランス料理に挑戦してみる。文化を学んで出かけた旅は、そうでない旅よりも何倍も深くなることは間違いありません。
今は来たるべき行動のための「深掘り」の時期と心得て、時間を楽しむに限ります。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。