成功の確率を高める能力とは

調査対象が40歳になった時に、介入されたグループでは高校卒業率、収入、持ち家比率などが、もう一方のグループに比べて高くなりました。一方で離婚率、犯罪率、生活保護受給率は低い結果になっています。つまり、介入された子どもたちの方が人生における「成功率」が高くなったわけです。この事実から幼児教育における「非認知能力」の重要性がクローズアップされることになりました。次の下りに「非認知能力とは何か」が説明されています。

 ヘックマンは、こうしたデータをもとに、乳幼児期において重要なのは、認知能力(いわゆるIQのような知的能力)ではなく、非認知能力をしっかり身につけることだと結論づけた。
  その非認知能力というのは、自分を動機づける能力、長期的な視野で行動する能力、自分を信じる能力、他者を信頼する能力、自分の感情をコントロールする能力などである。その核となる要素のひとつが自己コントロール力だが、最新の心理学研究でも、自己コントロール力が人生の成功を大きく左右することが強調されている。
(第3章 幼児期の経験が将来の学歴や年収を決める? 96~97ページ)

第4章では「非認知能力」を身につけさせるために、具体的にどのように子どもに接すればよいかが詳しく語れらます。「親が子どもとじっくり関わる」「失敗を恐れずチャレンジする心を育む」「友達と思い切り遊ばせる」「自尊感情を持つ」といったキーワードが並びます。著者の経験してきた事例と、心理学の最新の成果をベースにした記述はとてもわかりやすく、実際に子どもを持つ親には行動を変えるヒントを与えてくれるでしょう。

「折れない心」を育てる

こうした具体論を押さえた上で、最後の章では著者自身の子育てに対する考え方が整理して読者に示されます。その柱の1つが「レジリエンス」つまり逆境に負けない心を育てるということです。

 トラウマになるから子どもを傷つけてはいけないなどと言うのは、いきなり30キロのバーベルを上げさせられて筋肉を痛めた人がいるからといって、筋力を鍛えるのは危険だからやってはいけないと言うようなものである。その理屈がおかしいのはだれでもわかるはずだ。筋力を鍛えるには、無理のない範囲で重荷を背負わせる、つまり少しずつ負荷を高めていくのがコツになる。
  心の負荷も同じだ。小さな失敗や苦しい状況を繰り返し経験することで、失敗や苦境に対する免疫力が高まり、多少のことでは傷つかない、たとえ傷ついてもへこたれずに頑張ることのできるタフな心がつくられていく。
(第5章 子ども時代の習慣形成でレジリエンスを高める 198ページ)

長年にわたって若い世代を見てきた著者は、心の発育が未熟な人たちが増えているとしても「その責任は若者自身にあるわけではない」と強調します。親は無自覚なままでいると、教育産業のマーケティング戦略や偏差値教育の風潮に流されがちです。「子どもを守ってやれるのは親しかいない」という著者のメッセージが、なるべく多くの親たちに届くことを願っています。

◆編集者からひとこと 日本経済新聞出版・細谷和彦

本書は、私の子育ての悩みを著者の榎本さんに相談したことがきっかけで生まれました。すぐに傷つきやすい子どもが増えているように思えるなかで、子どもの自尊心を高めようと、ほめることを意図的に増やしていたのですが、どうも違和感がぬぐえませんでした。具体的にどうすればよいのか。幅広く答えを求めて、本書の執筆をお願いしたのです。

特に私がなるほどと思ったのは、読書の効用です。いまの大学生は、ほとんど読書をしない、できないといいます。この本の主眼の一つとしてレジリエンス(傷つきにくく、折れにくい心)があるのですが、読書でレジリエンスを鍛えることができるといいます。最初は本を読むのがつらいと思っていても、習慣化することで、それが当たり前になっていく。それができるのは、子どもが12歳になる前のいましかないのです。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ出版社の編集者が20~30代のリーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。掲載は原則、隔週土曜日です。

伸びる子どもは○○がすごい (日経プレミアシリーズ)

著者 : 榎本 博明
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 935円 (税込み)