過去の実績より、ポジティブさで判断

――中国電力でビジネスマンとしてキャリアを積んでいます。

「性格の問題かもしれませんが、振り返ると子どもの頃から仲間と何かを成し遂げることに喜びを感じてきました。その積み重ねの中で、中国電力で過ごした日々も今の指導に役立っています」

選手引退後は営業マンとして全力を尽くした(高台でポーズをとる27歳の原晋氏)

「社会人5年で選手生活を終え、引退後は営業マンになりました。わがままな人間と上司から見られた時期もありましたが、提案型の営業で頑張ってトップの成績を残し、新規事業の立ち上げにも参加しました。その時の社長に刷り込まれたのが理念と行動指針の大切さです。そして、結果を出さなければ会社は倒産する、ビジネスは勝負の世界だ、とも教わりました。会社が繁栄するにはライバルに勝たなければ売り上げは上がらず、選んでもらうためにはブランディングも必要になります。組織を一から築き上げていく当事者として新規事業に取り組めたことは、陸上部を立て直す上で一つのヒントになっています」

――箱根駅伝での選手起用など決断が迫られる場面で意識していることは。

「選手の所作や言葉の選び方を敏感に感じ取るようにしています。ポジティブ思考なのか、ネガティブなのかを観察する。寮生活で毎日顔を合わせているので、矢印がどちらに向いているのか、小さな変化がわかります。スランプ状態にいたら、やはり元気がなくなる。逆に調子が良くて勢いがある子は、体から自然とオーラが出てくるものです。熱量があふれ出てくると表現すればいいのか、今にもマグマが湧いて噴火しそうな雰囲気を持っている。いくら実績があっても気が沈んでいる選手は使いたくない。選手選考において過去の実績は関係ありません。そこを判断の基準にしています」

新型コロナウイルスの影響で5月からオンデマンド授業が始まるため「今は資料作りで頭がいっぱい」。監督業以外にもメディア出演など多彩な顔を持ち、多忙を極める

――青学大の選手は個々が自立しているように見えます。

「リーダーが情報をシャットアウトして、世の中と融合しない孤立した世界を作り上げようとするとギャップが生まれ、時代にそぐわぬ組織、人間になってしまいます。例えばSNS(交流サイト)などを禁止するチームもありますが、私は露出していくことは構わないと思っています。テレビに出演することもOK。ただし、注目を浴びることは同時に責任を負うことになります。たたかれたり批判されたりするリスクも忘れてはいけない。日ごろから自覚を持って発信し、行動するように伝え、学ばせてきました。選手たちはそうしたことも備えて、大人になってきていると思います」

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原晋
1967年広島県生まれ。広島・世羅高、中京大を経て中国電力に陸上部1期生で入社。引退後は社業に専念し、2004年に青山学院大学陸上競技部監督に転身。09年に33年ぶりの箱根駅伝出場を果たし、これまで5度の優勝に導く。19年から地球社会共生学部の教授に就任。

(渡辺岳史)

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