CMも自分たちで「イジり」たい
ところが、SNSの発達・普及を背景に、この5~10年ほどはそれ以前と比べて若者の気質に大きな変化が見られるという。「『失敗したくない』という若者に対するコミュニケーションの取り方、メッセージのつくりかたは、感動的な王道路線よりも、『ちょっと話題にしたくなるような仕掛け』をたくさん盛り込んだものへと変えています。大上段に構えたメッセージではなく、自分たちがイジれる、SNSも含めて色々なところで友達と話題にしたくなることを重視しています」という。
壮大なテーマをドンと打ち出すCMはメッセージ性が強く心に残る半面、ともするとお説教くさくもなる恐れがある。いまの若者気質を考えると、上から目線は響かない。
以前であれば、面白いCMは口コミや学校での話題で広がっていったが、情報の伝わる速度や情報の広がり方も大きく変わった。YouTubeなどで、テレビじゃなくてもCMを見てもらえるようになった時代である。白沢さんは言う。「ネットで何度も見てもらえるという環境があるからこそ、情報量をつめこんだ、1回見ただけではわけのわからないようなとがったCMでも確実に届くようになっている部分もあります」
できるだけ短い時間で、消化しきれないくらいの情報量や刺激をつめこんで、後々それがSNSの中で皆が話題にしたくなる、思わず人に話したくなる、それをネタに盛り上がっていくようなものを意識しながらつくっているという。SNSを起点に盛り上がりがつくられれば、テレビやネットでニュースになり、情報が自走していく。「最終的には店頭でカップ麺を買おうかなと思った瞬間に、『カップヌードル』のことが思い浮かべばいいかなと」(白沢さん)
ここ数年は、誰もが知っている国民的コンテンツを青春アニメ化した「HUNGRY DAYS」シリーズが話題となっている。『魔女の宅急便』『アルプスの少女ハイジ』『サザエさん』『ONE PIECE』などがそれだ。根強いファンのいる著名なコンテンツをCMにする場合、様々なリスクがある。それでも、徹底的にこだわったうえで攻めるという姿勢を貫いている。
もちろん、カップヌードルは若者のものだけではない。若者に対する意識を強く持ちつつも、パッケージそのものや味わいは普遍的なところを残し、変えるものと変えないものを明確に切り分けている印象を受けた。約50年の歴史を持つブランドだけに、若い頃から食べていた人はもはや中高年になっている。最近は塩分を控えめにした「ソルトオフ」も登場したほどだ。それでも、カップヌードルはこれからも若者の心を大胆につかみにいくだろう。世の中の声に耳を澄まし、そして大きくイメージを裏切る「攻め」の戦略で。
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て、千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。