ソニー・プロ向けヘッドホン クセ少なく、長く愛用も
今回の目利き 吉村永氏
今回紹介するのはプロ向けのヘッドホン。ヘッドホンは民生用としてはワイヤレスのイヤホンタイプが流行しているが、こちらは「スタジオモニター」と称するケーブル式。音楽の制作現場で使うヘッドホンはニュートラルな特性が求められる。低音が強調される音作りのヘッドホンでCDなどの音源を制作すると、実際にリスナーに届けられる音楽は低音が少ないバランスになってしまうからだ。
このスタジオモニターは約30年もの間、ソニーの「MDR-CD900ST」というモデルが定番で、現在でも多くのスタジオやミュージシャンが使っている。発売された当時はCDが最新の高品質音楽メディアだったのだが、最近はハイレゾと呼ばれるより高周波域までを収録した音源が登場し、この周波数域をカバーしたスタジオモニターが求められていた。これに応えたのがM1STだ。
試聴するとクセの少ない音作りで聴かせるが、かといって計測機器のような無機質なイメージではなく、程よく音楽のダイナミックさを盛り上げてくれる。ソニーのワイヤレスイヤホン&ヘッドホンの音質に不満を持っていたのだが、この機種はとても楽しめた。
最近の他モデルの多くに感じる不満は、音楽としてのバランスの悪さ。ハイレゾ対応なので超高域や低域までのレンジは確かに広いが、特に中音域の薄さやガサツな表現が目立ち、音楽としてのバランスがちぐはぐに感じる。結果、洋楽ポップスなどが楽しめなかった。
ハイレゾの音源の売り上げの多くはアニメソングで占められているという統計があり、アニメソング愛好家にはおおむね音質が好評なのでジャンルによる偏りもあると推察できるが、M1STはそういった偏りを感じさせない素直な音質だった。
また、断線しやすいケーブルが交換式になっていること、イヤーパッドなどが消耗したらユーザーが部品購入して付け替え可能なことなど、長年使える工夫も備わっている。
音楽のプロはもちろん、純粋に楽しみたい音楽ファンにも安心して薦められる高品位なヘッドホンだと感じた。価格は3万1500円(税別)。
(テクニカルライター)
[日経産業新聞2020年4月23日付]
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