「自分なり」の装い、他人の目にも心地よい

――これまで多くの男性は、自分の服装を真剣に考える機会が少なかったのかもしれません。

「自分の着たいものを的確に選べる人は、相当のレベルに達している人ですよ。普通は着たいものが分からない人がほとんど。だからなぜ今この服装なのか、というところに考えが至らなかった。でもコロナで社会のありようが大きく変わると、そういうことも考えざるを得なくなるんじゃないか」

――コロナが服装を一気にカジュアル化させるという声もあります。

「そうは思いません。TPO(時、場所、機会)の概念がなくなるわけではないから。ただ、これまでのように見栄だったり、単なるマネだったりのファッションではなく、それぞれのシーン、季節、場所を考えながら、『自分なり』の装いを見つけようとするようになる。自分流ということが大切なんです。人がみてうらやましがるような、『自分なり』を持つことです」

「もはや、大きなファッショントレンドなんて起きないですよ。個々の人が自分に心地よい服を求める競争が始まるんです。着慣れている、自分らしい、計算通りいっている、などと思える服装は、人の目にとっても心地よいものなんですよ」

――休日の服装でセンスを磨くためのアドバイスはありますか。

「僕は最近、鳥の巣箱づくりに突如目覚めて。家にやってくるスズメやシジュウカラのために巣箱を作ったり、そのかけ方を考えたりしています。前の日から『明日は巣箱を作るんだ、そのためにはこれを着よう』と考えるわけです。親父(石津謙介さん)もDIYや料理など家での作業がとても好きでした。大工仕事をするならカーペンターパンツ、料理をするなら自分用のエプロン、と予定を頭に描きながら服装を用意していたんです」

趣味人だった石津謙介さんの著書。料理の時にはコックコートを着るなど服装も本格派だった

「いまは何事も予定がストップしているでしょう。ならばその後、次のステップに目を向けましょうよ。そしてその時に着るものも考えてみるんです。例えば目先のことであれば、明日のテレビ会議ではあの上司が参加するからこのジャケットを着よう、とか、在宅勤務が明けたらこのコーディネートに挑戦しよう、とかね」

――長い自粛期間は、自分を見つめ直すいい機会になりますね。

「ベーシック回帰といいましたが、ベーシックな服をきちんと理解している人はそういません。舌が肥えている人がさまざまな料理を味わうことができるように、服の基本を知っていないと『自分なり』のスタイルは見いだせません。男の服の一番大切なものは機能であり、その機能が、その人の生活、その日の行動や季節と合致しているかどうかが重要です。コロナ騒動でこれまでの流行がいったん白紙に戻ってしまう気がします。今後は男として、人間としての魅力をいかに表現するかが肝心になると思います」

(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)

石津祥介
服飾評論家。1935年岡山市生まれ。明治大学文学部中退、桑沢デザイン研究所卒。婦人画報社「メンズクラブ」編集部を経て、60年ヴァンヂャケット入社、主に企画・宣伝部と役員兼務。石津事務所代表として、アパレルブランディングや、衣・食・住に伴う企画ディレクション業務を行う。VAN創業者、石津謙介氏の長男。

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