――ワードローブを点検して、いらないものを断捨離する人も増えているそうです。

「家に長くいますからね、いやでも目についちゃうのでしょう。ただ大事なのは、捨てる、という発想よりも、ワードローブを見直す、という発想かな。自分の洋服を全部着てみる。姿見を用意して一人ファッションショーをやってみる。そうすることで、自分を客観視して、ぴたぴたのスーツはやっぱり変だな、なんてことがわかるわけ。捨てようかと思っていた物が、実は思いのほか今っぽい、捨てるのやめよう、というケースも結構あるはずです。すると、今度はほしいものが見えてきます。コロナが収束したら何を買おうか、と考えるのも楽しいよね」

着て「気持ちいい」が重要に

――コロナは男の装いにどんな影響を与えていますか。

「いままで経験したことがない生活の場面が現れました。お父さんがウイークデーに子供を連れて近所に息抜きに行く。そのときに何を着ていくのか。近所だからって何でもいいわけではありません。ましてやおしゃれを意識している人ならば、自分は何を着て、子供に何を着せようかと考えて出かけます。在宅ワークでもそう。家で仕事をするという新しいシーンが現れた。さて、何を着るのがいいのか。日本人はコロナ騒動の後に、新しい『衣』の生活を組み立てていくんじゃないでしょうか」

「次に何をするか、だれに会うかなどを考えて、さあ何を着ようかと考えてみる」

――面白いですね。これまでなかった新しいシーンに合う服装への関心が生まれてくる。実際にテレワークの服装について議論が巻き起こっています。

「『着る』っていうことを真剣に考える人が増えていると感じます。これまで多くの人にとってファッションとは、人の目を気にするもの、でありました。異性にもてたい、かっこよく見られたい。どう見られるか、が重要でした。これからは、自分にとって心地よい服、気持ちがいい服、という点が重要になるでしょう。その傾向がコロナ後に一段と進みそうです」

――心地よい、気持ちいい服とはどんなものなのでしょう。

「心地よさには、肌触りという感覚的なものだけでなく、気分がいいといった精神的なものも含まれます。たとえば3着の異なるパジャマを日替わりで着てみて、その着心地をじっくりと味わってみてください。雨が降ったときはこれ、寝不足のときはこれがいいといった具合に、服に対する感覚が鋭敏になります。また、仕事のときのシャツ1枚でも、改めて鏡に映してみたら、顔立ちの印象が変わる色や形が分かるようになってくる。気分がアガる服を見つけ出せるのです」

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「自分なり」の装い、他人の目にも心地よい