中島みゆきの曲 影と向き合うキッカケ(川谷絵音)ヒットの理由がありあまる(21)

日経エンタテインメント!

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この連載コラムも21回目。今回取り上げるのは、中島みゆきさんが今年リリースした43枚目のオリジナルアルバム『CONTRALTO』。まずは、中島みゆきさんの魅力から語ろうと思います。

僕が初めて中島みゆきさんの曲を認識したのは、中学生の時に聴いた『プロジェクトX』で流れる『地上の星』だったと思う。その時は、あまりの独特な歌声と聴いたことがない曲調にびっくりし、どちらかというと両親の世代の音楽だと思い、あまり聴かなかった。そこからしばらくしてTOKIOの『宙船』という曲に衝撃を受け、それを作ったのが中島みゆきさんだということを知ってから積極的に聴くようになった。

そして『糸』。知人の結婚を祝って作ったそうだが、「縦の糸はあなた/横の糸は私/織りなす布は/いつか誰かを/暖めうるかもしれない」という歌詞はいつ見ても素晴らしい。また、“幸せ”ではなく”仕合わせ”とつづり、偶然性を強調したこの言葉が悲しくも見えるのも絶妙。そう、中島みゆきさんは歌詞が素晴らしいのだ。圧倒的に暗い歌詞が多い気がするが、『宙船』や『ファイト!』のような応援ソングもただの応援ソングにはならない。手放しで応援するのではなく、あえて突き放すというか、結局はお前次第だと強く言われている気がするのだ。

曲に住みついているような存在感

『ファイト!』では子どもを突き飛ばして笑う女が出てくるが、この圧倒的な悪の存在が歌の主人公をより弱くする。これによって、僕ら聴き手は主人公により感情移入していく。最初は主人公の応援をしているが、後半になると自分が主人公そのものになっている。下がっても下がっても這い上がらなければいけない、いつの間にか僕はそう感じていた。中島みゆきさんの曲は余韻がなかなか消えない。重たい何かを心の上に乗せられたような気がして、深く考え込んでしまうし、他のアーティストの曲がしばらく聴けない。聴いてる場合じゃないと思ってしまうのだ。みゆきさんの独特な強く突き刺さる声がそれを助長させる。

しかも、みゆきさんの声が入っていない『宙船』のような提供曲でもこの現象は起こる。みゆきさんくらい色が濃いアーティストを僕は知らない。ずっとそこにいるような、曲に住みついているような気さえする。それだけ存在感が強い。僕も提供曲になっても色が濃いと言われるが、このみゆきさんの濃さは人知を超えたレベルである。

今回のアルバム『CONTRALTO』に収録されている『おはよう』という曲は言葉通りの朝の挨拶の爽やかさはみじんもなく、“おはよう”と繰り返しながらも徐々に何かが終わっていくような切なさと怖さが同居したメロディーが続いていく。こんなに悲しい“おはよう”を僕は聴いたことがあっただろうか。心臓を直接つかまれたかのような衝撃があった。

ただ、この曲を3回繰り返して聴いた後の僕の脳内は少し変わっていた。もちろん悲しさはあるが、3回目はそれよりも“生きなきゃいけない”という感情が先走っていた。これが中島みゆきさんなのだ。何回も聴いていると負の感情が回り回って、完全なプラスではないが、陽の部分が出てくる。泣きながらも体は全力で走っているような、そんな曲。人が必ず持っている影の部分を、最初はただえぐっているように見えて、僕らがその影と向き合うキッカケをくれているように思う。

書けば書くほどに中島みゆきというアーティストのすごみが分かる。僕は今までの連載の中で1番熱が入っている。書き始めより今書いているこの瞬間の熱の上がり方が異常だ。これも今、みゆきさんの曲を何回も聴いているからかもしれない。そんな感じで打ちのめされながらこの文章を書いている。ヒットの理由がどうだなんて書いてる場合じゃないのだよ。これからもっとこのアルバムを聴き込んで自分の影と向き合おうと思います。こんな曲が、詞が、書けたら良いな。こんな歴史に乗せて歌い継いでいかねばならないような歌が歌えたら良いな。そんな自分へのメッセージも込めて今回は締めたいと思います。

川谷絵音
1988年12月3日生まれ、長崎県出身。ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoroといったバンドのボーカルやギターとして多彩に活動中。ゲスの極み乙女。は、5月1日より5thアルバム『ストリーミング、CD、レコード』を全曲先行配信中。

[日経エンタテインメント! 2020年4月号の記事を再構成]

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