創作意欲はエスカレートし、小屋づくりを決意

きっかけは、娘のための机作りだった。

ある日私は、娘がおままごとやお絵描きをするための小さな机を探していた。だが、気に入ったものが見つからず、自分で作ることにした。材木を切り、組み立て、ペイントすると、それなりに満足するものが出来上がった。

やがて、創作意欲はエスカレートし、「そうだ、せっかくだから自分でなんでもつくれるほうがいいよね」と思い、小屋づくりを決意。娘が3歳のときには、山梨県に住む友人の土地を借りる約束を取り付けた。

実際にやってみると分かるが、「小屋づくり」は素人には、か・な・り・難しい。「机」とは異次元なレベルで、日々、困難や失敗の連続である。

なんとかこの2年で、基礎打ち、壁造り、建前、屋根張り、ウッドデッキ、コンポストトイレづくりなどをクリア。その一連の作業の中で、娘もコンクリート打ち、家具作り、ペンキ塗りなどに参加してきた。おかげで娘は4歳にして、インパクトドライバーもペンキ用ローラーの使い方も理解している。

もちろんこれが、娘の人生にどんな影響を与えるのかは全く分からない。しかし、小屋プロジェクトは、親である私たちにとっても困難の連続であるだけに、完成した暁には、娘が人生の困難を切り開くヒントになるのではないか、という勝手な願いを抱いている。

ええ、我ながら理論の飛躍が甚だしい。まあ、少なくとも家族のいい思い出くらいにはなるだろう。それだけでも十分だ。

それはさておき、「白旗の少女作戦」の本番はここからだ。

考えてみよう。18万人という人々が亡くなった地上戦の中、なぜ7歳の富子さんが、ひとりっきりで生き残れたのか。それは、単なるサバイバルスキルのおかげではない。

過酷過ぎる日々の中で、富子さんは以下のようなお父さんの言葉をたびたび反すうしている。それは――。

――富子、人のまねはするな。いつも自分の頭で考えなさい――

まさにこれだ。これが、生死を分けたのだ。自分で考えて、行動する、与えられたオプションの中から選ぶのではなく、自分の力で何かを生み出す。自分のことを信じる。それこそが、「白旗の少女作戦」の目指す領域である。

しかし、それには、大きな障害物がある。

実は、私だ。

娘は4歳にして、インパクトドライバーもペンキ用ローラーの使い方も理解している(写真提供:川内有緒)

今ぎゅっと強く握っているその手を離すこと

ここまで文章を読んだ方々は、私がそれなりの節度と厳しさをもって娘に接しているように感じたかもしれないが、現実はその真逆。最初に言った通りに、私の子育てぶりは実にテキトー。いや、さらなる真実を言えば、不妊治療を経て42歳で授かった子どものせいか、自分にとって娘はもう本当に目の中に入れられそうな存在で、実態は過保護&甘やかしまくりなのである。

しかし、これは、全く娘のためにはならない。

ええ、理性ではよーく分かっている。

自分の頭で考え、行動するためには、家庭という「管理された世界」から、未知の混沌へと飛び出し、親の考えなんか悠々と飛び越えていかねばならない。そのために私がすべきことは、今ぎゅっと強く握っているその手を離すことなのである。

その日を想像すると、私は今からもう泣きそうになる。だからせめてその日までは、一緒にいる時間をとことん楽しもうと思うのだ。

川内有緒
ノンフィクション作家。1972年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業後、米国ジョージタウン大学で修士号を取得。米国のコンサルティング会社、日本のシンクタンク、フランス・パリの国連機関勤務を経て、フリーランスのライターに。評伝、旅行記、エッセイなどを執筆する傍ら、小さなギャラリーを運営。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』で第33回新田次郎文学賞を受賞、『空をゆく巨人』で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。一女の母。

[日経DUAL 2019年12月17日付の掲載記事を基に再構成]

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