結果的には良くもあしくも購入者が予想を大きく超えることはなかったので、予定通り12万円ほどの収益を配信で得た。これで家賃も光熱費も払って何とか生活を維持できる。問題なく落語家を続けられる。

4月の中ごろになって、目に見えて多くの落語家がSNS(交流サイト)での発信など、コンテンツ配信に取り組むようになった。思っていたよりも落語会の中止が相次ぎ、これがしばらく続くとなると、ただ待機しているだけだとまずいことになる焦りや不安もあるのだと思う。

失うものの少ない若手による配信コンテンツが乱立する中、印象的なのはこれまでおおよそネットとはかけ離れたアナログなイメージが強かった師匠方の配信も少しずつ増えてきたことだ。特にアナログなイメージの強かった柳家三三師匠が真っ先に4月から毎週1回、ちょっとしたトークとたっぷり渾身(こんしん)の一席を務める配信を開始されたのには驚いた。橘家文蔵師匠はご本人だけでなく、豪華なゲスト真打ちとさらには若手の一席まである普段の落語会となんら遜色のないハイクオリティーな配信を、春風亭一之輔師匠は普段だったら寄席でトリをとっていた4月21日~4月30日の10日間、20時10分くらいから高座を無料生配信されている。

同じような時間帯に、魅力的な師匠方の配信が重なるようにもなってきた。つまりは配信コンテンツの供給過多が迫っている。そうなってくると、通常の落語会同様、配信でも人気のあるところに人が集まり、特に無名の若手のところには人が集まらなくなってしまう。そこを乗り越えるためにはそれぞれが工夫を凝らすしかない。

ライブ以外の発信も磨く

コロナウイルスの感染拡大がどれくらいで止められるのかは分からない。専門家の意見にもバラツキがあり、とにかく自宅待機し、医療崩壊のリスクを軽減するしかない。

それでも確実に分かっているのは、今回の騒動が収まったとして、もう以前の世界には戻れないということ。これはネガティブな意味だけじゃなくて、ポジティブな意味も含んでいる。新型コロナウイルス以外にも、今後もまた新たな感染症は我々の生活を脅かすことになるだろう。また感染症だけでなく大きな災害などで、人が集うライブ演芸ができなくなることもあるだろう。そんな時のために、今回の経験を生かし、落語家としてあくまでもライブ演芸に軸足を置きつつも、それ以外の発信方法はこれからも磨いておく必要がある。

とにもかくにも、落語を含めてあらゆるエンタメは皆様の生活基盤が確保されてこそ花咲くものだと思っている。まずは自分自身を、そして身近な人を守るためにやれることをやりましょう。

立川吉笑
本名は人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。エッセー連載やテレビ・ラジオ出演などで多彩な才能を発揮。19年4月から月1回定例の「ひとり会」も始めた。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)。

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