きっかけは「ニセ西郷さん」 教育×IT起業家の目覚めatama plus 代表取締役 稲田大輔氏(上)

サークルの話だけなら就活生のよくあるエピソードの一つかもしれない。しかし稲田氏の場合、漠然と夢を語っているだけではなかった。三井物産の内定後、配属を希望していたインターネット事業部門の幹部に自らアポイントメントを取り、温めていた二つのビジネスモデルをプレゼンに行った。

「東京大学アントレプレナー道場」で準優勝を勝ち取った経験を持つ

一つは在学中に「東京大学アントレプレナー道場」で準優勝を勝ち取った、お笑いに関するアイデア。もう一つは修士論文のテーマにしたケータイコミックに関する新たなビジネスモデルだった。熱のこもったプレゼンテーションが功を奏したのか、希望通りに配属が決まると、今度は社内から、お笑いについては吉本興業に、ケータイコミックに関しては角川書店(現KADOKAWA)にアイデアを持ち込むよう後押しを受けた。

「入社1カ月目のことだったので、今考えると相当いい気になっていました。でも、プレゼンした吉本興業、角川書店の幹部には全く通用しなかったんです。そこでボコボコにされて、今まで僕が考えてきたのは、机上の空論にすぎなかったのだということをいやというほど思い知らされました。ビジネスは、最後はお金を出してくれる人の気持ちを動かせるかどうかです。そこで上司に、人の心を一から勉強したいので、どぶ板営業の経験をさせてくださいと頼み込みました」

広告代理店に出向し、営業を担当した。しかし、そこでも稲田氏は苦杯をなめることになる。売り上げランキングでは毎月、メンバー中最下位が続き、「東大出身だよね、本社から来たんだよね」という冷ややかな視線を浴びた。悔しかった。来る日も来る日もお客さんの立場に立って物事を考えるとはどういうことか必死に探った。やがて数字がついてくるようになった。

机上の空論で失敗した過去を反省し、お客さんから直接言われた言葉をヒントに、新しい事業プランも提案した。大企業の社員食堂のトレーを一つのメディアだととらえ、そこで働く従業員に訴求しそうな英会話教室やカード会社の広告を出すというアイデアは事業化にまでこぎつけた。入社2年目にして責任者を任され、達成感を感じた。だが、それはつかの間のことだった。

「トレー広告に社員がどう反応するのか、食堂の端っこから見ていたとき、あれっと思ったんです。ユーザーに笑顔がないぞと。はっきりと不快そうな顔をする人もいました。僕がもともとやりたかったのは笑顔を増やすことだったはずなのに、何かが違うぞと」

再び悶々(もんもん)とした。会社で自分がやりたいことをやらせてもらっていることはありがたかったが、似たような価値観の人が集まる環境の中で、発想の幅が狭まっているのではないか。学生時代、異なる分野の融合にワクワクした原点に戻るためにも、全く違う環境に身を置きたい。そんな思いが募ってきた。

そのころ、日本はGDP(国内総生産)世界第2位の経済大国だったが、年間の自殺者が3万人以上という状態が続き、「自分は幸せ」と答える人の割合も国際的にみて低いことが話題になっていた。稲田氏は日本と対照的に、幸せを感じている人の割合が高いブラジルに興味を持つ。経済的に決して豊かとはいえず、貧富の差も大きいブラジルで、なぜ人々は幸せを感じているのか。

「これは実際に行って、自分の肌身で体験するしかない」

そこから5年間にわたるブラジル滞在が「教育×IT」のイノベーションへとつながっていく。

(ライター 石臥薫子)

管理職・ミドル世代の転職なら――「エグゼクティブ転職」

5分でわかる「エグゼクティブ力」
いま、あなたの市場価値は?

>> 診断を受けてみる(無料)

「エグゼクティブ転職」は、日本経済新聞社グループが運営する 次世代リーダーの転職支援サイトです

NIKKEI 日経HR


マネジメント層に必要な4つのスキルを鍛える講座/日経ビジネススクール

会社役員・経営幹部の方を対象とした、企業価値を高める経営の実務に役立つビジネス講座を厳選

>> 講座一覧はこちら

今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
注目記事
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら