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「おつまみせんべい」新潮流 家飲み増えて需要も急増

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NIKKEI STYLE

老若男女、せんべいを食べたことがないという日本人はいないだろう。出身地や世代を問わず、子供の頃から意識せずとも身近にあったのではないか。ただ世界中の新しいグルメが流れ込む今、どうしても「お年寄りが緑茶を飲みながらつまむもの」という昔ながらのイメージを持ってしまいがちだ。

日本のせんべいメーカーは創業100年以上の老舗が多いが、家業を継いだ3代目、4代目がそろって、そのレトロ感を払拭し新風を吹き込もうとしている。結果、20代前後の若い世代が「逆にカッコいい食べ物」としてSNS(交流サイト)で取り上げたり、ワインやハイボール、そしてコーヒーともペアリングできるせんべいも登場したりと業界は今、動いている。

また今は、外出自粛で自宅での晩酌やオンライン飲み会がトレンドとなり、おつまみ需要が急増。片手で食べられて酒にも合うせんべいが注目されている。今回はせんべいの新潮流を起こしているメーカー3社を紹介する。

1社目は大正12年(1923年)創業、東京都板橋区の本店をはじめ東京近県を中心に多数店舗を展開する中央軒煎餅(東京・板橋)だ。しょうゆせんべいやのり巻きを組み合わせた「中央軒おかき」や、海外でも高評価の「花色しおん」などいくつもの主力商品があり、50~60代を中心に固定客が付いているが「今までおせんべいを手に取る機会がなかった方にも食べていただきたい」(社長の山田宗さん)と昨年発売したのが「リゾコッティ」(6個入り648円から、税込み)だ。

「イタリアのビスコッティを玄米で再現したおかき」で、かじるとぼりぼりかむ音が脳天まで響きそうな硬めの食感だが、すぐほろりとくずれ、コメの味と香りが後追いでやってくる斬新なお菓子だ。第1弾の「2種のナッツ & バター風味」に続き、今年3月には「パルミジャーノ レジャーノ & ブラックペッパー」を発売。パルミジャーノはチーズの風味たっぷりでワインやウイスキーにも合いそう。ナッツはザクザク歯に当たる、アーモンドとコメの感触が病みつきになる。

同社には「きりのさか 玄米ちっぷす」(カップ入り540円、缶入り1080円、税込み)という人気シリーズもあり、インスタグラムやツイッターで紹介する若い女性も多い。ふわっと軽い食感のミニサイズせんべいで、8種類のフレーバーがある。「桜えび」とレモンサワー、「ごぼう」とカシスオレンジ、「玉ねぎ」とトマトジュースのカクテル・レッドアイとの相性など、独自のペアリングを提案しているのも面白い(ノンアルコールもあり)。

「『自分のための大切な時間』をテーマにしたお菓子で、かわいい、気分が上がると好評をいただいています。広い世代の方がせんべいに興味を持ってくださるきっかけになればと思います」(山田さん)

2社目は江戸時代後期の文化元年(1804年)創業、200年以上の歴史がある松崎商店(東京・中央)だ。この老舗企業が興し、4月16日に発売したばかり新ブランド「やわかたこい。」が「せんべい界の新星」と話題を呼んでいる。

同社は「銀座 松崎煎餅」として銀座や世田谷に直営店を構え、瓦せんべいなどを販売してきたが「日本の伝統食文化であるせんべいをもっと若い世代に伝えたい」という思いから発案したそうだ。定番の「しみせんべい」と、生地がしっとりした「ぬれせんべい」をそろえ、それぞれ「しょうゆ」「ざらめ」「カレー」「ソース」の4種の味付けで計8種類の商品をシンプルに展開している(1袋5枚入り450円、税別)。

ワンコインという価格と、カラフルなパッケージに平仮名で「じわっとひたひた しょうゆのしみせんべい」「じっくりにこんだ カレーのぬれせんべい」と書いた商品名も分かりやすく、せんべい界の新ムーブメントを体現しているようだ。

中身のせんべいを食べるとポップでキャッチーな見た目と一転、上品な塩加減と口当たりに驚く。しょうゆとザラメはおなじみの味だが、しつこくなりがちなぬれせんべいでも重たさがなく、何枚も食べられる。ビールはもちろん、チューハイやワイン、梅酒にも合いそうだ。カレー味は舌にビリっとくる刺激感が男性好み。ソース味は一口で縁日のシーンが思い浮かぶが、大人が食べてもカジュアルすぎない味だ。

「米菓業界では『ぬれせんべい=ジャンク、カジュアル』な位置付けですが、期間限定で販売すると好評で社内でも人気があり、若い方がもっとせんべいに注目してくださるのではと新ブランドを作りました。1年近く試食と検討を繰り返し、ぬれ・しみせんべいともにパンチも付けた『ハマる味』に仕上げたのでぜひ召し上がっていただきたいです」(代表取締役の松崎宗平さん)

4月16日に渋谷ヒカリエに1号店をオープン予定だったが、施設全体の自粛休業中により、現在はオンライン販売のみ行っている。早く事態が終息し、渋谷で若者がせんべい片手に闊歩(かっぽ)する姿を見たいものだ。

3社目は笠原製菓(東京・江戸川)。「SENBEI BROTHERS」というブランドを打ち出している。1960年創業、4代目となる現社長の兄(笠原健徳さん)と、その弟でせんべい製造を一人で担う工場長(忠清さん)が倒産寸前だった家業を立て直し、従来のせんべい業界では規格外の挑戦を続けた結果、メディアや各業界が着目し希少ブランドに成長したというサクセスストーリーは有名だ。

初めて私がこのせんべいを食べたのは1年前、別の取材で訪れた「星のや東京」でだ(星野リゾートともコラボしている)。「トリュフ塩」と「飛騨山椒」味の2種を試食し強烈な香りと深い味わい、それでいてさっぱり、後味の良いせんべいに「なんだこれは?!」と目をむいた。

18種あるフレーバーのうち、酒を飲む男性に人気なのが「バジル」(378円、税込み)で、韓国料理のサラダを食べているような「チョレギ」(594円、同)は女性好みのマッコリやチャミスルにも合うとのこと。「梅かつお」(648円、同)は4月5日に発売したばかりの新シリーズ「Japan Selection」で、一般的な梅味のせんべいと比べて生地が非常に軽く、やめられなくなる。商品はすべてオンライン販売のみですぐ売り切れてしまうが再入荷時のメール連絡を依頼しておくと、2週間前後で購入できるという。

「『せんべいを、おいしく、かっこよく』が僕と弟に代替わりしてからの企業理念です。特徴的な味作り、使う素材の質、焼く工程すべてに膨大な時間とコストをかけて、少量生産のうちでしか作れないせんべいをお届けしています」(健徳さん)

以上、せんべいの新トレンドを紹介した。私は母親がせんべいが大好物で、子供の頃から横でバリバリ音を立てていた光景に食傷気味だった。まねしてつまむと味が単一的すぎる上、口内にべったり張りつくのが苦手で縁遠かったが、今回挙げた3社の斬新な味には衝撃を受け、魅力を見直している。そして新しくなっても、コメやしょうゆという日本人がほっとする要素が土台にあるのがせんべいの良さだ。今回の未曽有の事態、友達と会えず飲み会に行けずとも、#Stay Home with SENBEIで乗り切ってみては。

(フードライター 浅野陽子)

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