ある日突然、激しい痛みに襲われるぎっくり腰。経験者は誰しも「あの痛みは二度と繰り返したくない」と思うものだ。しかし、実際には、ぎっくり腰を二度、三度と繰り返す人や、ぎっくり腰をきっかけに腰痛が慢性化してしまう人も少なくない。
「腰痛持ちにならないためには、ぎっくり腰発症直後の対応が大事」と言うのは、東京大学医学部附属病院特任教授・松平浩さんだ。松平さんは腰痛の研究や診察の経験から、腰痛には「安静よりも運動が有益」なことや、腰痛には「心理的ストレスが強く影響する」ことに着目し、慢性腰痛の改善に成果を上げてきた。今回はぎっくり腰の発症直後の対処法について伺った。
ぎっくり腰とは何か?
ぎっくり腰は、重い荷物を無防備な状態で持ち上げようとしたり、床に落としたものを拾おうとしたり、くしゃみやせきをした拍子に起こることが多い。
現代人は、長時間パソコンに向かったり、スマートフォンをチェックしたりするため、猫背や前かがみの姿勢になりがちだ。「腰椎の4番目(L4)と5番目(L5)の間にある椎間板(L4/5椎間板)には、無防備に前にかがむだけで200kgの物がのっかるくらいの負荷(200kg重)がかかります」(松平さん)
「その状態で物を持ち上げたり、くしゃみで瞬間的に前かがみになると、腰にはさらに負担がかかり、椎間板の髄核が大きくずれて線維輪を傷つけてしまうことがあります。それが典型的なぎっくり腰です」(松平さん)

「私は、猫背や前かがみ姿勢に伴う、主にL4/5椎間板にかかる負担を『腰痛借金』と呼んでいます。借金がたまった結果の『二大事故』がぎっくり腰と椎間板ヘルニア[注1]。事故を未然に防ぐためには、姿勢を良くして借金をためないことと、たまった借金を返済することが大切です。前かがみの姿勢でたまった借金は、腰を後ろに反らすことで返済できます(詳細は前回記事「デスクワークでたまる『腰痛借金』 3秒体操で解消」をご覧ください)」(松平さん)
「こうすると楽」な姿勢があるなら、あわてて受診せずともOK
ぎっくり腰は痛みが激しいため、特に初めての時はパニックになりがちだ。「発生直後は確かに気が動転して動けなくなることもあるでしょうが、落ち着けば意外と動ける場合も少なからずあります。まずは気持ちを落ち着かせ、平常心に戻ってきたら、できる範囲で『ぎっくり腰体操』と『レッグレイズ』をやってみましょう。これらを行うと痛みをやりすごすことができたり、回復が早まる可能性があります」(松平さん)
[注1]ぎっくり腰は髄核がずれて線維輪を傷つけてしまった状態。椎間板ヘルニアは、髄核がさらにずれて線維輪よりも外側に飛び出し、神経を刺激してしまった状態。