どんな実験結果が出るかは重要ではない

続いてスマホのアプリ「desmos」を利用する。これは「波」の特性を視覚的に理解するために開発された教育用アプリである。配られたプリントのタイトルは「2年物理実験No.3(1) 波をスマホ(desmos)で生じさせよう!」。

アプリに「y=sin t(yとtは斜体字、以下同)」と入力し、「0≦t≦10」と設定すると、「y」を縦軸、「t」を横軸にしてぎこちなく動く波が表示される。「t」は時間を表す。これを、3秒周期でなめらかに動くように調整する。具体的には「sin t」の部分に、マイナスを付けたり、「2π」をかけたり、「3」で割ったりしていく。いろいろな数式を当てはめてみて、うまくいくかどうか試行錯誤しているのだ。結果的にうまくいってみて、「あ、こうすればよかったんだ!」と、初めて理屈がわかる。

なめらかな波を表す数式を考える実験にはスマホを利用する

教室のあちらこちらでそれぞれのグループがあの手この手を試している。生徒たちの反応や表情はさまざまだ。今和泉さんは各グループの作業をのぞき込みながらまわり、時折ヒントを与えたり、疑問を膨らませたりする一言を発する。

授業後、今和泉さんに話を聞いた。「理屈だけではちょっとつらい内容でも、スマホを使うことで自然科学の実験に近い形で手を動かしながら取り組むことができます。そうすると、なんらかの法則を見つけるまで生徒たちが勝手に試行錯誤してくれます。今回の実験には関係ありませんでしたが、スマホは測定デバイスとしても優れているので、物理実験のツールとしてはとても便利なんです」

言われてみれば当たり前だ。スマホは物理を応用した技術の集大成のような物体。それをうまく利用すれば物理の基礎を学ぶのにも便利なわけだ。

「別のクラスではこんな数式をつくって送ってくれた生徒がいるんですよ」と言って、今和泉さんは、まるで生き物のように動く波を生成させる数式を見せてくれた。そして「これがなぜこうなるのか、私でもすぐには理解できないんです。おそらく相当試行錯誤したんだと思います」と驚きの表情を見せる。

筑駒では高2で「課題研究」が必修だ。理科分野に限らず、各生徒がぞれぞれの興味・関心に従ってテーマを決めて自由な発想で探究し、学年末に成果を発表する。「自分でやると決めたときに最後までやり切る力に関しては筑駒生はすごいですね」と今和泉さんは言う。

一方で「筑駒だからできるんでしょ」と言われるのは嫌だとも言う。「大学の研究とは違いますから、中高生が行う実験の価値に高いも低いもありません。中高生のうちは自分が興味をもったことに対して、結果がどうなるかわからなくてもやれるところまでやってみようと思って試行錯誤する体験をしてほしい。それは、学力的にはどんなレベルであってもできるはずなんです」と今和泉さん。

中高生が大学の研究者を気取って高価な実験器具を用いた派手な実験をする必要などない。実験が成功しなくてもいい。結果よりも、いわば「やる気になっちゃった体験」自体が、将来生きていくうえでの糧になるというのだ。

<<(上)筑駒生が文化祭で学ぶ裏方としてのリーダーシップ
<<(中)都会の超進学校・筑駒 なんでコメ作りをガチで体験?

筑波大学附属駒場中学・高等学校(東京・世田谷)
創立は1947年。1学年160人だが、毎年100人前後の東大合格者を出し、東大合格率の高さでは圧倒的な強さを誇る。2019年の東大合格者数は119人。東大・京大・国公立大学医学部合格者数の直近5年間(2015~2019年)平均は127.6人で全国9位。卒業生には、参院議員の小池晃氏、東京大学付属病院元院長の門脇孝氏、みずほフィナンシャルグループ元会長の塚本隆史氏、JR東日本会長の冨田哲郎氏、経営共創基盤代表取締役CEOの冨山和彦氏、演出家の野田秀樹氏などがいる。

新・男子校という選択 (日経プレミア)

著者 : おおたとしまさ
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 935円 (税込み)

ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら