在宅勤務で会えない不便と寂しさ 雑談チャットで解消
新型コロナウイルス感染症の影響で、推奨されているテレワーク。ただ、かつてないほどの長期間に及んでいることから、課題も見え始めている。テレワークを導入する企業の最前線に迫った。
新規開拓の営業もテレビ会議で
システム開発のクラスメソッド(東京・千代田)は今年1月末から300人の社員のほぼ全員がテレワークを実施しているという。同社で営業を担当する西羽葵さんは「社内の業務だけでなく、お客様との打ち合わせもテレワークで実施しています。担当が新規顧客の開拓なので、お客様の大半が初めてお会いする方ですが、画面越しのやり取りでも問題ないです。グーグルが提供するG Suite(ジースイート)というサービスの『ハングアウトMeet』というテレビ会議機能をよく利用するのですが、テレビ会議画面に入るためのURLを相手に送り、アクセスしてもらえば簡単に始められます」
西羽さん自身は普段からテレワークで働いていたこともあり、テレワークに切り替えとなっても大きな戸惑いはなかった。ただ、ここにきて課題も見えてきたという。
「営業先では新たにテレワークを始めてみたというところも増えてきて、若干手間がかかることもありました」と西羽さん。
「慣れていないお客様はテレビ会議画面に入るためのURLにどうアクセスすればいいか分からずに、戸惑ってしまうことも。結果、ミーティングが15分遅れでスタートしたこともありました。ただスタートできさえすれば、問題なくやり取りできています」という。
同僚から「さみしい」との声
社外の人だけでなく社内間でのやり取りも、テレワーク期間が長期間に及んでいることから、不便さを感じることも出てきたという。
「隣に気軽に話しかけられる同僚がいないので、さみしさを感じることがあります」と西羽さん。同僚からも「そろそろ会いたいね」というメッセージが送られてくることもあったという。
そこでクラスメソッドでは社内で使用しているチャットアプリの中で、業務連絡とは関係なく、何を話してもいい「雑談ルーム」を立ち上げた。仲のいい同僚同士、その雑談ルームに集まって、リモートランチを取ったり、ゲームをしたりして、コミュニケーションを取りさみしさを紛らわせているという。
さらに「仕事をし過ぎてしまう」ということも課題の一つ。仕事と家庭の境目がなくなり、仕事を切り上げるタイミングが難しく、つい通常よりも長く働いてしまうケースが出てきているという。
「各自、チャット上で業務開始と終了をアナウンスするようにしています。業務時間が長すぎる場合は、上長から『なぜ長引いているのか』をヒアリングされます。働いている姿が見えない分、もしかしたら一人で大量の仕事を抱えてしまっていないかという確認のためです。また会社から全社員に『日が落ちないうちに散歩に行きましょう』などのアナウンスがあり、休憩時間を取ることを勧められています」
中には働き過ぎを防ぐため、あらかじめスマートスピーカーのグーグルホームやアレクサに仕事の完了時間にアラームが鳴るように設定しておき、音が鳴ったら仕事を終えるようにしている人もいるという。
夫婦二人テレワークで情報漏洩に配慮
社員の働き過ぎが課題になる一方で、上司が「本当に働いているのか」と部下に不信感を抱く事態も生じているようだ。プロジェクト管理ツールの「Backlog(バックログ)」など、ITツールを提供するヌーラボ(福岡市)の担当者は「お客様から、テレワークを始めて急に上司が部下の行動を管理したがるようになったという話も聞きました」という。
また、自宅で働くことで、情報漏洩にも細心の注意を払う必要がある。そんなときに壁となるのが、共働きの夫婦2人ともテレワークとなったケースだ。ヌーラボのマーケティング部で働く原彩香さんは、自宅での働く環境に頭を悩ませているという。
「夫婦共にテレワークを実施しているのですが、それぞれ会社は別。テレビ会議などで機密情報に関する話をすることもあるので一つの部屋で働くことはできません。どちらかがリビングで、どちらかが寝室などしてやり繰りしています」
今回の緊急下におけるテレワークでの勤務体制は働く現場に様々な課題を浮き彫りにしている。ただそれらをうまく乗り切ることで、今後の働き方改革のヒントになるはず。どう知恵を絞るか、各社対応を迫られている。
(取材・文 飯泉 梓=日経doors編集部)
[日経doors 2020年3月26日付の掲載記事を基に再構成]
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